2015年08月03日(月)

“中国で働く” 34 小さい会社の工場経営

順利包装集団 福喜多俊夫


 「中国に於ける小さな会社の工場経営」といっても経営の基本は国内も中国も同じです。ただ中国は社会主義市場経済を標榜する共産党一党独裁の国です。中央の権力基盤が替われば政策も大きく変更されます。また、地方レベルでも首長が替われば政策はダイナミックに変更されます。これが中国での工場経営を難しくしています。

中国のビジネス環境は変化している

 経済成長の著しい中国では仕事環境も時々刻々変化しています。 中国での成功は環境変化に如何に対応するかであると言っても言いすぎではありません。工場経営面での最近の環境変化は、


1)慢性的な優秀な人材の不足(特に中間技術系管理職と日本語が話せる経営職)
2)経営コストの上昇(円安による輸出コストの上昇、全国的な人件費の上昇)
3)各種規制の強化(労働契約法施行、税制変更、環境規制の強化)


また、経営課題として次の5点が圧し掛かってきています。


1)供給過剰による値下げ競争
2)売掛金回収の困難さ
3)顧客開拓の難しさ
4)競争の激化(既存の顧客・分野を巡る)
5)取引先からの値下げ要求(既存顧客からの定期的な値下げ要求)

工場マネジメント

 中国で工場を運営する場合、これまではスタッフの処遇にはかなり神経を使ってきましたが、現場作業員の処遇については、その地域の最低賃金をベースに近隣の同業者や同規模企業の賃金を横目で見て決めてきたのが実態ではないでしょうか。  諸手当や福利厚生にしても、日本本社の規定を準用するのではなく、中国の労働法に従い最低線は守りながら、近隣の同規模企業より少し上を行く水準で従業員の定着を図ってきました。しかし、この状況は近年大きく様変わりしています。富士康(フォックスコン)の生産ライン労働者の13人にも上る連続自殺事件をきっかけに、富士康は待遇改善と30%~60%の大幅な賃上げを行いました。その後、広東省でホンダの部品会社の従業員がホンダの組み立て工場と同水準の賃金を要求するストライキが発生、これが他のホンダ系部品工場や他社にも広がりました。そして、ストライキをすれば賃金が上がることに目覚めた労働者の反乱は瞬く間に沿海部から内陸部まで波及しました。最近の賃上げストは、これまでの中国の成長モデルの矛盾が顕在化したものと考えられます。これまでの農民工の賃金は生きていくための賃金でしたが、中国全体の生活水準が急激に向上し、生活コストの上昇も著しく、これまでの賃金では生活が苦しくなってきたことに加えて、農民工の世代も80後(80年代以降生まれ)、90後(90年代以降生まれ)と呼ばれる新世代に主体が移ってきています。この世代は生きていくための賃金では満足できず、都市の若者と同様に生活を楽しむことを求めるようになってきました。 中国の労働事情は新しい時代に入ったと考えねばなりません。

営業現場のマネジメント

 中国に進出した製造会社の多くは、日本の顧客の中国進出に伴い、既存顧客への供給を主目的に中国工場を立ち上げた、あるいは製造拠点をコストの安い中国に移したが、販売は日本本社が担当という形でスタートしています。しかし、顧客構造はどんどん変容して行き、当初の日本から移ったお客さんだけでは事業が成り立たなくなります中国に設立した会社による自前の顧客開拓が遅かれ早かれ必須となるわけです

お金のマネジメント

 お金のマネジメントは一般的に、①購買管理 ②製品販売価格管理 ③回収と支払い ④社内の経費管理ですが、工場経営に携わる人は工場管理者としての納期、品質、コスト、安全とともに顧客、サプライヤーとの関係も含めた利益意識をもつことがとても大事です。1千元の利益を出すためには少なくとも1万元の売上が必要です。 しかし、1千元損をするのは簡単です。不良品や不良在庫を作ればあっというまに損が膨らみます。 このことはサプライヤーとの関係でも意識しなければなりません。 サプライヤーに規格外品を押し付けられないように注意が必要ですし、時には特別採用(特採)で相手の利益にも配慮し、恩を売ることが必要な時もあります。

リスクマネジメント

 海外で会社を経営する場合に遭遇するリスクは大きく分けて、①経営環境リスク②業務遂行リスクがあります。経営環境リスクは自社をとりまく経営環境の変化によるリスクで、社会・経済状況、法律・諸規制、業界状況があります。 業務遂行リスクは日常の業務遂行上で発生するリスクです。財務リスク(予信、キャッシュフロー)、事故・火災、従業員の不正・不祥事などです。 最近は更に「公平性に関するリスク」も顕在化しています。待遇に日本人駐在員と中国人スタッフで差をつけると訴えられる可能性があります。空気清浄器を日本人駐在員にのみ支給して大問題になったケースがあります。

      

経営改善へのアプローチ

 中国での工場経営は新設工場の経営を担当する場合と、後任として経営を引き継ぐ場合があります。いずれにしても経営実態を把握出来なければ適切な手が打てません。新任者は自分の手で実態把握をやってみることをお勧めします。特に合弁会社に出向される総経理あるいは管理職の方、あるいは日系以外の会社のトップとして迎えられた方は最初が肝心です。提出されるレポートだけではなかなか実態が把握出来ません。

 注意しなければならないことは、「財務分析から会社の実態はわかるが、会社を良くする方法はわからない」ということです。この会社を良くする方法を考えることこそ総経理(社長)の最大の役割です。 どのような商売でもお客さんに商品(有形、無形)を売り、粗利益を得ます。この粗利益が企業活動の源泉です。したがって、会社を良くすることを考える根本は、お客を作り出し、それを維持する方法を考えること、粗利益をいかに増やすか考えることに尽きます。

衣食足って礼節を知る

 昔から衣食足って礼節を知るといいますが、会社経営でも同じです。会社が儲かっていないと人心が荒れてきます。修繕費予算が不足すると設備メンテが手抜きされます。 設備が汚れてくると工場全体の清掃も行き届かなくなります。従業員の服装も乱れてきます。事務所では経理部員が支払い遅延の言い訳で四苦八苦し、しだいにうそを並べるのに抵抗が無くなってきます。 支払いが遅れると納入業者との信頼関係が壊れ、品質不安、納期遅延が発生します。下向きスパイラルが回り出すと止めどが無くなります。 反対に利益が出て、キャッシュフローに余裕が出てくると福利厚生にもお金を廻せるようになり工場が明るくなり、従業員に活気が出てきます。不思議なもので上向きスパイラルが回りだすとコストダウンも進みます。 経営者の最大の役割は利益を上げることです。コスト、品質、納期に気を配ろうとしても利益が出なければ長続きしません。衣食を足らしめるのが経営者の手腕です。 中国ではまだ、工場労働者の娯楽は少なく春節前の年夜飯(忘年会)や中秋食事会を喜びます。 また、年一回の一泊旅行を企画するとほぼ全員が参加します。 これらの企画も利益が出ていれば少し豪華に出来、従業員のモラルが目に見えて向上します。中国での小さい会社の工場経営者は利益を出すことの大切さを肌身で感じる毎日です。

 

 初めて中国に赴任して中小企業の工場経営に携わる方に「中国における小さい会社の工場経営」を差し上げます。下記までご連絡ください。

福喜多 俊夫

順利包装集団(総公司:香港)総裁 (上海在住)

専門分野
海外子会社管理(経営管理・工場経営・品質保証)、目標管理、包装・物流情報

カネカ勤務中は米国、ベルギー、東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、フィリピン、中国、香港)の子会社管理、工場指導を担当し、関連子会社に10年ほど出向していたこともあるので、中小企業、特に海外の中小工場経営が得意。


【資格】
◇技術士(経営工学部門)
◇APECエンジニア(工学部門)


【参加団体】
◇大阪能率協会
◇技術士包装物流会
◇(財)海外職業訓練協会(OVTA) 国際アドバイザー

この顧問・専門家のブログを見る

メール

福喜多 俊夫
このHRAホームページの先頭へ