2010年01月19日(火)

中国での商標登録

中之島シティ法律事務所 弁護士 井上周一


中国でも,近時,日本企業を含む外国企業の模倣(品)を取締り,その保護につながる動きが出てきています。そこで,中国での商標登録において参考となる事例を紹介します。

1.事例(「王子」等商標の取消し)

 かつて王子製紙㈱(以下,「王子製紙」)と貿易取引関係のあった会社の代表者が,別の系列会社(以下,「A」)の名義で「王子 OJI 図形」の基礎商標(以下,「本件基礎商標」)を取得した。また,その後,Aから本件基礎商標を譲り受けたBらは,本件基礎商標の漢字及び図形部分を基礎として,「王子 Prince 図形」などの商標(以下,「係争商標」)も取得した。
 これに対し,王子製紙は,本件基礎商標について,中国商標法13条,15条,31条,41条1項を理由に,商標評審委員会へ取消を求めたが,商標評審委員会は,いずれの理由についても取消を認めなかったため,王子製紙はその判断の取消を求めて訴訟を提起した。

2.判断

 第一審法院も,13条,15条,31条についてはいずれも理由がないとしました。しかし,41条1項については,係争商標の登録者だったAは,係争商標の出願日の前に,王子製紙の商標を知っており,「王子」「OJI」及び紙テープが地球に巻きついている図形が王子製紙の商標であり,またはその商標の特徴的部分であることを知っていたとしました。そして,すでに登録した商標が,他人が先行使用する商標であると商標登録者が明らかに知り,または知り得べきでありながら,悪意で自発的に登録出願した場合,そのような行為は信義誠実の原則に反し,先行使用者の合法的権益を侵害し,公平な競争の市場秩序を害するとして,これを理由に本件基礎商標の取消しの判断を下しました。


 これに対し,Bらは上訴を提起しましたが,第二審人民法院は,さらに15条,31条についても,いずれについても理由があるとして,第一審判決の一部も取消す判断を示しました。つまり,王子製紙のすべての主張を認める判断をしました。

3.検討

(1)抜け駆け登録

 自社の商標が先に他人に登録された場合,その商標を譲り受けたり,登録を無効,取消したりしなければなりません。
 しかし,いずれも容易にできるとは限りませんので,自ら登録をしておくべきです。中国で製造販売を行うような場合にはきちんと登録をすることが多いですが,OEMのように中国での製造のみの場合や輸出のみの場合には,登録をしていないこともあり要注意です。事例の企業も,商社を通じて輸出を行っていましたが,商標登録を行っていませんでした。また,OEMの場合,他人が中国で商標を取得していると,中国の税関で,正規品が逆に「侵害品」として中国から輸出できなくなることもあります。
 なお,発明専利(特許)や実用新案専利(実用新案)については,発明者など以外が出願した場合,冒認出願として無効となりますが,商標は基本的には先願主義(早い者勝ち)ですので,単に他人の商標を出願しただけでは無効や取消にはなりません。ちなみにこれは日本でも同様です。


(2)対策

 事前の対策としては中国でも先に商標登録をすることに尽きますが,他人に商標が登録された場合の対策としては,不正な手段での登録(31条,41条1項)を理由に取消しを求めることができます。また,中国でも著名な商標であれば,それを理由にすることもできます。なお,登録後5年以上経過した場合には,取消を求めることができなくなることもありますので,注意が必要です。
 これまでは,このような方法がよく行われていましたが,上記事例では,これらに加えて,無権代理人等による出願(15条)も理由にしていました。これは,以前,王子製紙と取引関係にあった者が商標登録に関わっていたためです。抜け駆けで登録されたすべての商標についてあてはまるものではありませんが,以前の取引先などが勝手に登録を行うことも,ままありますので,そのような場合には,これを理由に取消を主張することも多くなると思われます。


(3)準備

 事例では,最終的にはいずれの理由についても取消が認められました。しかし,その立証のために多数の証拠を収集したり,提出したりする必要がありました。
 「中国で広く知られていたこと」を立証するためには,中国への販売実績や実際の販売状況,中国での展示会への出展,世界的な知名度などの証拠が必要となり,これを立証するためには相当な証拠を要します。
 また,「無権代理人等による出願」については,貿易取引に直接関係する証拠の他,取引前後の文書のやりとりや当時の取引先の名刺などが必要になります。
 事例では立証にも成功し,取消が認められていますが,相当以前の資料が証拠として必要となることもありますので,普段からきちんと資料を残しておくことも心がけたいところです。

<参考 中国商標法>

13条
 同一又は類似の商品について出願した商標が,中国で登録されていない他人の著名商標を複製,模倣又は翻訳したものであって,かつ同著名商標と容易に混同を生じさせる場合には,その登録とその使用を禁止する。


15条
 授権されていない代理人又は代表者が自らの名義により被代理人又は被代表者の商標について登録出願を行い,また被代理人又は被代表者が異議を申し立てた場合には,その出願を拒絶しかつその使用を禁止する。


31条
 商標登録の出願は先に存在する他人の権利を侵害してはならない。他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない。


41条1項
登録された商標がこの法律第10条,第11条,第12条の規定に違反している場合,又は欺瞞的な手段又はその他の不正な手段で登録を得た場合は,商標局はその登録商標を取消す。その他の事業単位又は個人は,商標評審委員会にその登録商標の取消についての裁定を請求することができる。

井上 周一

中之島シティ法律事務所 (大阪在住)

専門分野
中小企業向け模倣品対策、知的財産分野や情報などに関する分野

日本の関西大学法学部卒業後、司法試験に合格する。
大阪大学大学院法学研究科、司法研修所を修了した後、大阪で弁護士登録を行う。
知的財産に関する紛争、契約、交渉の他、執筆、講演や非常勤講師も行い、近畿経済産業局主催の中国ビジネス知財戦略基盤定着支援事業に参加し、主に中小企業向け模倣品対策を行う。
知的財産分野や情報などの関連分野について、豊富な経験を有する。

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