2010年02月20日(土)

中国専利法の改正ついて

中之島シティ法律事務所 弁護士 井上周一


中国専利法の改正が行われ、2009年10月から施行されました。今回の改正には,共有権利の取扱いや職務発明など外資企業(日本企業)にも少なからず影響を与える内容が含まれています。そこで、専利法の基礎と今回の改正のポイントについて簡単に解説します。

1 中国専利法の基礎知識

(1)中国専利法(以下,単に「専利法」といいます。)では,専利として,発明専利,実用新案専利,外観設計専利の3つが定められています。これらは,日本の特許権,実用新案権,意匠権に相当します。


日本 中国
特許権 →発明専利
実用新案権 →実用新案専利
意匠権 →外観設計専利

(2)権利の終期が日本とは異なります。意匠については、要注意です。


日本 中国
特許権
出願日から20年
延長登録あり
→発明専利
出願日から20年(日本と同じ)
延長登録なし(日本と異なる)
実用新案権
出願日から10年
→実用新案専利
出願日から10年(日本と同じ)
意匠権
登録日から20年
→外観設計専利
出願日から10年(日本と異なる)

(3)日本では,新規性喪失の例外は特許,実用新案,意匠のいずれについても認められていますが,専利法では,発明専利のみとなっています。また,この例外の適用を受けることができる展示会,学会などについても,限定されています。


(4)意匠については,日本では登録要件(新規性等)についても実質的な審査が行われています(審査主義)が,中国では形式的な審査のみで実質的な審査は行われません(無審査主義)。また,中国では,部分意匠(物品の一部だけについてのデザイン),秘密意匠(一定期間,意匠を公開をしない制度)はありません。


(5)日本では,冒認出願(実際の発明者など以外による出願)があった場合,その後,特許などとして登録されたとしても,無効理由となり,無効とすることができます。しかし,中国では,冒認出願は無効理由とはなっていません。真の権利者は,自分が発明者などであることを立証して,発明専利などの権利について,移転を受けることができることになっています。
ただ,今回の改正で,新規性の基準が,中国国内だけでなく,全世界に広げられたため,日本ですでに特許となっている技術を中国で出願しても,日本の特許を理由に登録を受けることができなくなりました。


(6)中国では,間接侵害(侵害の予備的行為も侵害行為とする制度)の規定が設けられていません。

2 共有権利の取扱い

基本的には,日本と同様に,共有者間の契約で定めることができ,その内容にしたがうことになります。ただ,契約で定めない場合には,日本と取扱いが異なることがあります。
今後,中国での研究開発で生まれた権利について,中国企業や現地従業員との共有となることも増えてくると思われますので,その際には注意が必要です。


(1)自己実施
この点は,契約で定めない場合も,日本と同じです。各共有者は,相手の同意を得ないでも,自由に製造販売などをすることができます。
したがいまして,他の共有者に実施して欲しくない場合には,契約でその旨を定めておく必要があります。


(2)権利行使
共有の権利について侵害者に対し差止請求や損害賠償請求を行う場合は,日本と中国では取扱いが異なります。
契約で定めない場合,日本では,相手の同意がなくても,単独で差止請求権を行使することが可能です。また,共有持分に応じて,損害賠償請求権を行使することも可能です。
これに対し,中国では,いずれも相手の同意が必要になります。
相手に自由に権利行使をして欲しくないときには,契約で定めなくても構いませんが,反対に,こちら側で自由に権利行使を行いたいときには,その旨,契約で定めていないと,相手の同意を得なければいけませんので,注意が必要です。


(3)第三者への実施許諾(ライセンス)
共有者以外の者へライセンスを行う場合も,日本と中国では取扱いが異なります。
契約で定めない場合,日本では,相手の同意が必要となります。共有者自身が実施することは予測できますが,ライセンス先の製造能力などによっては,他の共有者へ影響するために,自由にできないようになっています。
これに対し,中国では,自由にライセンスをすることができます。ただし,実施料(ロイヤリティ)を相手に配分する必要があります。
よほどの場合でない限り,自由にライセンスをしてもよいとはならないと思われますし,また出願の時点でそのような判断をすることは困難であると思われますので,契約で定めておく必要があります。

3 職務発明

中国では職務発明創造といわれますが,日本とは相当異なります。
また,今回の改正前は,国有企業のみを対象としていましたが,改正により,国有企業以外(合資企業,外資企業など)についても対象とされることになりました。


(1)発明等の帰属
中国では,特許を受ける権利は,原則として(職務発明規定などのない場合)使用者に帰属することになります。また,実用新案,意匠についても,使用者に帰属します。
したがいまして,従業員が勝手に出願することはできませんが,上述のとおり,中国では,冒認出願は無効理由とされていませんので,その従業員から移転を受けることになります。ただ,そのような手続を行うことは,大変になりますので,就業規則等で帰属や後述の報償について定めておき,従業員に対しても,事前に十分な説明を行う必要があります。


(2)報償(報奨金,報酬金)
発明者などとの間で,取決めがない場合,使用者は次のような報償を支払わなければなりません。
まず,権利が成立した場合,中国では,報奨金として,特許の場合は3000元以上(改正前は2000元以上),実用新案,意匠の場合は1000元以上(改正前は500元以上)を発明者などに支払わなければなりません。
つぎに,職務発明を使用者が実施した場合,中国では,報酬金として,使用者自身が実施した場合,特許の場合は税引き後利益の2%以上,実用新案,意匠の場合は税引き後利益の0.2%以上を発明者などに支払わなければなりません。また,他者へライセンスをした場合には,税引き後実施料の10%以上を発明者などに毎年一括して支払わなければなりません。

他方,発明者などとの間で,取決めがある場合には,基本的にはその取決めにしたがうことになりますので,これからは職務発明創造の報償については,取決めをしておくことが必要になります。

4 その他

上記の他,今回の改正では,新規性の基準が引き上げられ,また中国国内で完成した発明,考案を外国に特許,実用新案出願する場合の秘密保持審査の制度が設けられるなど,多くの点で変更がありました。

日本企業などの外国企業にも影響がありますので,日本と中国と法制度の違いや今回の改正については,十分に気を付けるようにしましょう。

井上 周一

中之島シティ法律事務所 (大阪在住)

専門分野
中小企業向け模倣品対策、知的財産分野や情報などに関する分野

日本の関西大学法学部卒業後、司法試験に合格する。
大阪大学大学院法学研究科、司法研修所を修了した後、大阪で弁護士登録を行う。
知的財産に関する紛争、契約、交渉の他、執筆、講演や非常勤講師も行い、近畿経済産業局主催の中国ビジネス知財戦略基盤定着支援事業に参加し、主に中小企業向け模倣品対策を行う。
知的財産分野や情報などの関連分野について、豊富な経験を有する。

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