2012年12月24日(月)

中国税務・長い旅の税金リスク

上海知恵企業管理諮詢有限公司 高級顧問
アジア移転価格専門コンサルティング 代表 小川 孝一


グローバリゼーションの進展は、日本企業の活躍の場を国内から中国を含め海外各地へとビジネス戦線を展開させます。その頑張るマンたちは、国外の一定の場所に居住せず一年間に数カ国を滞在する戦士となります。そこで小沢さんと管さんに係る課税の問題です。

戦士の派遣先
小沢さん 各国3ケ月で一年~ アメリカ イギリス イタリア シンガポール
管さん 3ケ月で帰国 フランス マレーシア 香港  

判定の結果
小沢さん 配偶者同行 ①いずれの国も非居住者に該当、
②いずれの租税条約も適用されず、
③各国の法令に従い課税を受ける可能性有り
管さん 単身 ①日本の居住者に該当、
②日本払給与について国外における滞在期間も継続して所得税源泉徴収の必要有り、
②日本と租税条約締結国では短期滞在者扱いより免税特典有り、
③香港は租税条約無しのため香港法律に従い課税有り

 国外の定点に居住せず且つ年間に数カ国をまたぐ場合では、国内における住所の有無の判定が基となります。そこでは、客観的事実により生活の本拠が、日本国内又は国外のいずれかで判定されるところとなります。

 所得税法においては、居住者とは、国内に住所を有する個人です(所法2①三)。その住所は各人の生活の本拠とまでは云えないが一定の期間継続して生活する場所と解されます。判例では住居、生計を一にする家族、職業、資産の状況等の客観的事実を総合勘案して決定(*1)となります。が然し、実際判定はなかなか難しいところが多いため、そこには国内に住所を有しない者として所得令15 条の推定規定(*2)が優先してきます。

 戦士の移動においては、国外一定の場所に居住せず、国外各地を数カ月ごとに移動の場合、原則的な扱いに戻り且つ客観的事実と照合しその生活の本拠地が国内外いずれに在るかにより住所の有無が判定されます。

 当然、居住者・非居住者の判定にも各国国内法で異なります。1年間に数カ国に滞在し同一期間について複数の国で締結されている租税条約の規定により、いずれかの国の居住者とされるかを決定することになります。

 戦士の滞在地が、2ヵ国以上にわたる場合の住所の判定は、住所、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などの客観的事実によって判断され、また滞在日数のみで判断するものではない為、1年の6 ケ月(183 日)以上滞在している場合でも居住者となる場合もあるのです。1年の間に居住地を数ヵ国にわたって転々と移動する戦士、所謂、永遠の旅人の場合も、その人の本拠が日本にあれば日本の居住者です。


 それでは給与の所得はどの国で課税義務となるでしょうか。

 一般的では、給与所得は役務を提供した場所、即ち所得の源泉地においてその役務提供国が課税権を有します。但し短期滞在者免税への要件を満たした場合では課税は免除です。それは逆に、どの国の居住者でも無いという場合では、租税条約に係る短期滞在者の免除への規定が適用されることも無いということになります。


[要件] 一方の締約国の居住者の;
a 他方の国における滞在日数が課税年度又はいかなる連続する12ケ月のうち合計で183日を超えないこと
b その報酬が他方の国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われること
c その報酬が他方の国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われること、報酬が他方他の国に有する恒久的施設又は固定的施設により負担されないこと

 なお、租税条約では、日本と異なる規定を置いている国との二重課税を防止するため、個人、法人を含めた居住者の判定方法を定めています。具体的ではそれぞれの租税条約に依存します。

 国籍をひとつの判断要素としている条約もあります(日米租税条約等)が、一般的には、個人については恒久的施設、利害関係の中心の場所、常用の住居、そして国籍の順に考えて、どちらの国の居住者とみられるかを判定3するところとなる訳です。

 これらの状況より、二人の課税に係る問題を整理すると次になります。


  業務の問題 課税等の問題 付随する問題 租税条約の問題
小沢さん 4ケ国に概ね3ケ月程度づつ合計1年以上日本離国 日本の税務上ではと出国の翌日より非居住者となり、その課税の対象は国内源泉所得に限定 出国までの期間に支払われる給与収入2000万円以下の場合出国の際に年末調整の必要有り、2000万円超且つ納税管理人を定めない場合その翌年3月15非までに確定申告の必要有り 滞在国全て条約締結国であり、その各国滞在が概ね3ケ月程度と短期間であるため、いずれの国でも非居住者扱いとなり条約適用は無い。因って短期滞在者免除適用は無く、滞在地国の国内法より申告の必要有り
(所法7①三) (所法161ハイ、所法190、所基通190-1(2)
管さん 3ケ月単身での滞在 国外に継続して1年以上居住するのではないため推定規定の適用は無い
客観的事実より生活の本拠判断が必要。①年間の海外の滞在日数が3ケ月と短期間であり、②住所(生活本拠)は日本に在るとして居住者に該当される
各国における勤務期間に対応する部分の所得税を源泉徴収する必要が有る
(所法183①)
日本居住者である管さんが滞在地国で課税される場合には、日本での申告において外国税額控除の適用を受けることにより二重課税を排除することができる

 2004 年の中国税務局に次が有ります。中国内に住所のない個人に対して租税協定及び個人所得税法を施行するにあたっての若干の問題に関する通知(国税発[2004]97 号)で税対応が明確にされています。

 税計算の方法は、国内中国現地企業が人件費の一部を負担する短期滞在者の場合は、次の算式で個人所得税を算出することになります。



この計算式の捉え方は次によります。

先ず、中国現地法人が負担している部分だけではなく、給与総額(中国内外で受け取っている給与の総額)をベースにして個人所得税の計算を行い、その上で、中国現地法人の給与負担比率、中国労働日数比率を乗じる事により個人所得税額を確定させるものです。つまりは、中国国内法人が負担する給与額が基礎控除(外国籍人4800 元)の範囲内であった場合も個人所得税の納税は必要となるのです。


(次回は短い旅の税金リスクを予定です)



*1 所得税法基本通達2-1
*2 所得税法施行令15①一; (国内に住所を有しない者と推定)第十五条 国外に居住することとなった個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有しない者と推定する。 一、その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。 二、その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつその者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと。 (2)前項の規定により国内に住所を有しない者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国外に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有しない者と推定する。

小川 孝一

アジア移転価格専門コンサルティング 代表 (上海在住)

専門分野
会計・税務管理、移転価格税、中国税務&国際税務、内部統制構築

日本および中国にて、一貫して税務・会計畑を歩んできている。
特に、国際税務に関わる移転価格税制に精通。
移転価格税に関わる対策文書/同時文書の作成、税務調査を中心として事例研究多数あり、関連セミナー講師多数。

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