2010年02月02日(火)

日本人のコミュニケーション

佐藤中国経営研究所 代表 佐藤忠幸


日系企業では、日本人であっても、中国人幹部を通して意思を末端まで伝え、仕事をします。この「伝える」「教える」というすなわち「コミュニケーション」は、ここ中国では最大の難関です。今号は、これについて学びます。

事例 意思が通じない赴任者

無錫工業団地にある日系特殊自動機器製造B社には、製造指導の日本人赴任者が3人いる。何れもベテランの製造マンである。製造スタート時は、赴任者を中心に機器を製造したのでスムーズに立ち上がった。しかし中国人管理者を採用し、業務移管をし始めたとたんに問題が起き始めた。

日本人は総経理に、「中国人は幾ら説明しても理解できない」「中国人は言うことを聞かない」「あの通訳は役に立たない」「中国人は自分では何もできない」と全て中国人のせいにして怒っている。

中国人は総経理に、「日本人は言うことがその都度変わるので何をやってよいのか分からない」。中国人通訳は、「日本人は知らない言葉ばかり言っているので通訳不能」「日本人が言っていることは分からない、聞き返すと怒るので適当に通訳するようになった」と口々に不満を訴えた。

中国語よりも、正しい日本語を

日系企業の多くは、赴任者を派遣する前に中国語教室に数ヶ月通わせます。しかし、失礼ですが、赴任される方にまず勉強していただきたいことは中国語よりも日本語です。数ヶ月・数年の中国語教室は、通わないよりかはマシ、という程度と認識してください。

事例は他人事ではありません。大なり小なりの違いはあっても、日系企業の大多数が抱えている問題です。事例の会社に出向き、観察結果分かった事は下記の日本人赴任者の問題でした。

①専門用語、業界用語、職場用語が飛び変わっている

②前置きが長すぎたり、例示が多すぎたりして話の論点が不明

③極端な省略があって、何のために何をするのか伝わらない等

仮に優秀な通訳を通しても、直訳されれば中国人には通じない事はお分かりでしょう。また、中国語が堪能な日本人であっても、この事例のような話し方で中国人に話しても通じる訳がありません。逆に誤解の種が増えるだけです。

外来語、業界用語は通じない

事例で特に問題なのは①です。ここが異国の中国だということを完全に忘れています。何時の間にか、日本本社での社内用語にカタカナが増えたことに気がつきませんか? カタカナ用語の多くは外来語であり和製英語です。業界用語や職場用語もその類が主です。日本人でも社外の、しかも、業界外の人なら全く通じませんね。それを通訳できる中国人は殆どいません。

通訳が嘆く「日本人は、知らない言葉ばかり言っているので通訳不能」「日本人が言っていることは分からない、聞き返すと怒るので適当に通訳するようになった」の多くはこれです。そのカタカナ用語は、漢字混じりの日本語に直して通訳に説明してください。それができなければ通訳不能と思ってください。どうしても分からなければ辞書や参考書で調べてください。その過程で今まで曖昧だった本当の意味を理解できるはずです。

前置き不要、事例は最後に

親切にあるいは分かりやすくということで、前置きや事例を丁寧に長々と話している方を見受けます。長すぎると、論点が分からなくなります。前置きや事例はあくまでも主要論点の解説です。

ずばり、結論を言って、「その説明として事例を言うよ」と断ってから事例に入ってください。それでないと主要論点の通訳をしない場合があります。前置きはよほどのことがない限り不要です。雰囲気を和らげようとか分かり易くしようとか、親切心を出して前置きを長々と話すとかえって逆効果です。

結果的に「日本人は、言うことがその都度変わるので何をやってよいのか分からない」「日本人が、言っていることは分からない、聞き返すと怒るので適当に通訳するようになった」ということになってしまいます。

我 愛 你 の文法を守れ

単語が正しくても文法があいまいでは通じません。

文法は日本人のもっとも苦手なことです。中国語を含めて外国語の大部分は「主語+述語+目的語」が明確です。日本語では「主語+目的語+述語」ですね。日本人が最初に覚える中国語は「你 好」と「我 愛 你」です。

「我 愛 你」は一般的には「愛しているよ」と訳されますが正確には次です。


我 愛 你 =I Love You = 私は 愛します 貴方を ⇒ 私は貴方を愛します


日本語では、XXが(主語)ZZを(目的語)YYする(述語・動詞)と結論が最後になり、これが誤解の元凶です。ましてや、長々と修飾語をならべ、例示を散々されたら結論がどんどん後回しになり、あいまいになってしまいます。言われた方は、何をすればよいのか分からなくなり、結論が変わったように聞こえて「日本人は、言うことがその都度変わる」となります。

日本人の多くは述語以外を省略しますが、長い間同じ職場で働いていた仲間なら通じても新職場しかも異国では通じません。「愛します」だけで通じるのは恋人だけです。

言葉に手抜きするな

もう一つの重要なことは、5W1Hを忘れるなということです。「何を、何時、誰が、何処で、どうやって、何のために」するのかを明確に伝えなければ中国人は動けません。あるいは推測で行動されます。結果が期待と異なることがあっても当然です。

日本人の多くは「言語明瞭、意味不明」だとよく言われます。通訳が直訳したら全く意味不明になるような余分な言葉が多すぎ、必要な言葉が抜けているからです。あまりにもこういう機会が多いと通訳も聞き返し難く推測で訳されてしまいます。その結果は「中国人は、幾ら説明しても理解できない」「中国人は、言うことを聞かない」「日本人の言うことが分からない」となります。

佐藤 忠幸

佐藤中国経営研究所 代表 (上海在住)

専門分野
企業管理・人事労務・労使関係・品質管理・幹部・5S研修・社内規定

電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。

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