2010年06月30日(水)

日系企業特有の深刻な問題ストライキ

佐藤中国経営研究所  佐藤忠幸


 最近、多くの日系企業でストライキが頻発しています。今号は、「しっかり話せ日本語」の続きの予定を変更してこの話題を取り上げます。

 ストライキの、原因の多くは賃上げ要求であり、大幅な賃上げを勝ち取り労働者側の勝利に終わっています。ストライキによる操業機会損失は莫大なものでしょうが、それよりも心配なこと、深刻な問題は、交渉経過と妥結の仕方です。これに味を占めた一部の過激派労働者は、今後も日系企業を狙い打ちにすることでしょう。

中国ではストライキは違法

この一連の事件は、ストライキといわれ、日本のメディアでも、ストライキと報道されていますが厳密に言うと間違いです。あれは集団サボタージュです。

中国でストライキは、禁止されており、本来あり得ないことです。

中国の労働組合法(中国では工会法)では争議を禁止しており、それどころか、労働組合(中国では工会)は企業に協力して争議を収めることが義務付けられています。

集団サボタージュは、成果が見込めなければやらない

日系企業の経営者の多くは集団サボタージュが起こると、びっくりし弱腰で対処するため労働者としては多大な成果を得ています。

労働者としては、解雇になりかねない大きなリスクがある違法集団サボタージュは、成果を勝ち取る見通しがなければやりません。

強気の一部過激派労働者が、後であおっているとも言われていますが、彼らは日系企業なら、確実に効果があることを見越してやったことです。

日系企業に何故頻発するのか

日系企業に集団サボタージュが多いのは次の理由だと思います。


1、経営者に当事者能力がない

 集団サボタージュが発生すると、総経理は自分で判断せず、また交渉の場面に出ず、まず親会社に問合せることが大部分です。日本にいる親会社では、どうやって対処してよいかは分かるはずもなく、会議、会議の連続でしょう。挙句の果てに、さらに現地に問合せを繰り返し、弁護士と相談するなどして、労働者への回答が遅くなる一方です。

回答が遅いということは、何らかの妥協があるものと労働者は受けとめ、期待を抱かせてしまい、ますます問題をこじらせています。


2、日常の労使関係維持活動が無い

 日系企業の多くは、工会など労働団体に対する関心が薄く、労使関係の構築をしていません。労組アレルギーがある親会社の影響と労使交渉経験のない総経理という事情があってか、工会などの労働者代表組織(まとめて労働団体という)を作っていません。

そもそも、労働団体は労働者の自由な意思で作るべきものですが、労働者の多くは労働団体活動を嫌っており、放っておいたらどこも作りません。労働者の意思で作るとしたら、労働者にとって深刻な問題が起きたときだけであり、したがって、会社主導で作らせるしか方法はありません。

中国政府は、民主化の一環として労働団体の組織率を上げるべく地方政府に圧力をかけており、地方行政当局からの圧力で形式的に作った労働団体が多くあります。

そのようにしてできた労働団体代表者の多くは、工場長や人事部長など会社側の者です。

それでないと引き受け手がいないという事情もあり、地方政府もそれを容認、それどころかそれを勧めた地方政府もあるからです。したがって、定期的な労使協議・団体交渉もしないし、労働団体内部の定期会議・職場集会もしない、それどころか定期大会すらしません。

これでは労働者が頼りにはしないし相談相手にもなり得ません。そうなれば、力任せのサボタージュという実力行使に出るのは当然です。


3、交渉下手

 日系企業経営者の多くは初体験の交渉であり、集団サボタージュに対する危機管理マニュアルもありませんので毅然たる態度を取らず、何でも足して二で割る交渉をしがちです。

労働者側は、それを見越した金額を吹っかけていれば、労働者の希望通りの額で妥結は簡単です。地方行政当局に応援を依頼するケースもありますが、行政は、中央政府が進めている所得倍増政策の影響を受けて企業に賃上げを勧めており効果は小さいようです。


4、賃金制度の曖昧さ

  日系企業の多くは、いつ、どうすれば賃金が上がるのかという制度が不明確なことも背景にあります。がんばった者、成績のよい者は、いくら上がり、逆の者はいくら下がるという制度・仕組みが明確に公開されていません。昇給作業時期すらも不明確です。

  これでは、昇給したいときに集団で訴えたくなります。

対処方法

1、断固拒否する

 突然の労働条件改定要求は、断固拒否すべきです。

「我が社の賃金改定時期は○月である。その時には何も言わず、今頃になって突然賃上げ要求をされても交渉には応じない」「昇給原資はない」などときっぱりと、即刻ゼロ回答をします。小額なら、という甘い顔は労働者側を付け上がらせるだけ、逆効果です。

ずるずると、小出し回答をするのは最悪の事態を招きます。

また、間違っても、親会社に相談するなどという素振を見せてはいけません。


2、サボタージュ者の処分を通知・実施

サボタージュは規則違反として、断固処分します。

サボタージュ時間は、厳密に計算し賃金カットを必ず行い、それを通知します。

もちろん首謀者は解雇です。共謀者も戒告減給処分は必須です。これをしない限り再発は防げません。また、これにより、労働者にとって「首をかけて」まで集団サボタージュをする価値があるか否かの厳しい選択となります。

やり得、ごね得は絶対に避けなければなりません。


3、行政当局にも甘い顔はしない

 地方行政当局が介入し、もし労働者の味方をした場合、「いつまでも埒が明かなければ工場閉鎖しかない」と通告します。これは彼らがもっとも避けたい事態です。

防止対策

集団サボタージュは、起こさないことがベストですが、起きてしまったらその時の痛手は大きくとも、絶対に再発させないことが最重要であることは言うまでもありません。

そのためには、上記が必須です。

そのためには、何よりも、現地法人経営者に当事者能力を持たせるため、法人の位置づけと権限を見直し、それにふさわしい教育訓練をしておくことが肝要です。

中国の集団サボタージュは、外地にいる親会社で解決できる問題ではありません。賃金など労働条件がよければ防止できるというものでもありません。

公正透明な賃金制度を策定することは必須条件であり、労働者に頼られる労働団体を育て健全な労使関係を構築し、団体交渉・労使交渉を定例化すべきことも当然です。


分かりやすい賃金制度があり、定期的に労働者の意見を吸い上げ、定期的に団体交渉している企業で、しかも経営者に当事者能力のある企業で、集団サボタージュなどあり得ません。

この点では、先行している欧米系企業を見習うべきですね。

その上に、「人の和」を強調している、日系企業のよいところを加味すれば万全ではないでしょうか。

佐藤 忠幸

佐藤中国経営研究所 代表 (上海在住)

専門分野
企業管理・人事労務・労使関係・品質管理・幹部・5S研修・社内規定

電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。

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