2010年07月31日(土)

健全な労使関係の構築でストライキ防止

佐藤中国経営研究所  佐藤忠幸


中国では一般的に、「やってはいけない」と書かれていないことは「やってよい」と、解釈されます。

したがって、中国ではストライキは違法ではないが、法律的に保護もされていないという微妙な存在です。憲法・労働法・労働契約法・工会法など、すべての法規はスト権を労働者と工会の権利としていません。その意味は、『国はストライキを承認しないだけではなく、消極的な方法でストライキを避け、ひいては制限している』ということでしよう。

政府の態度と立場

前回、「中国でストライキは、禁止されており、本来あり得ないことです」と、書きましたが間違えました。ストライキを禁止するとは、どの法律にも明確に書いてありません。(ただし、公務員など一部は明確に禁止されています)しかし、やってよい、とも書いてなく、やる場合のルールも規定していません。

労農国家として出来上がった現代中国としては、政治的に極めて微妙な問題といえるでしょう。

ストライキは労働者と工会の法定権利ではないため、ストライキ行為は、法律による保護或いは保障はしていません。したがって、ストライキをした結果、会社から罰せられることからの保護もありません。

よって、ストライキによる損失を保障しないし、民事免責や行政免責及び刑事免責権を有しません。

集団契約と総工会の動き

しかし、市場経済という名前の「資本主義」が定着しつつある現代においては、世界で認められている労働者の基本的権利(団結権、交渉権、争議権)を認めざるを得ない方向に向っています。

その一つが、2012年まで、全国に「集団契約制度」の浸透と定着させるという方針です。集団契約制度の核心は賃金集団交渉です。

いわゆる、工会が従業員を代表して、企業経営者と賃金分配制度、分配形式、収入水準などについて対等に協議、労使双方共同で労働者賃金等を決める方式です。

これを受けて、総工会は次の指令を全国に出しています。

  • 各地方工会に、『積極的に企業へ給料集団協議制度化を申し入れろ』と指示。
  • 受け入れない、あるいは消極的な企業に対しては「警告書」を発行する。
  • 拒否する企業に対しては、労働行政部門に申請し、法的責任を追及する。
  • 「交渉できない」「交渉を恐れている」工会に対しては、積極的に指導する。

「広東省企業民主化管理条例」案をめぐり審議

さらに、広東省は進み、7月21日、ストなど労働争議や労使交渉の在り方などを定めた条例の審議に入りました。これは、07年~08年に法制化の動きがあったが、08年の恐慌で中断していたものを再開したものです。確実に法制化し、全国に広まることでしょう。

採択されれば、労使交渉に関する包括的な法規としては中国初となる、画期的なものです。

条例案83条項のうち、25条項は賃金交渉に関するもので、交渉は全従業員の5分の1以上の要求に基づき、少数の代表のみが交渉に参加できると規定しています。

そして、経営側が交渉を拒否した場合、スト権が与えられると明記しています。

また、経営側はスト参加を理由に従業員を解雇できないことも盛り込まれました。

先進国労働組合と工会の相違点

 ここで、工会とは何かを振り返ります。一般的に労働組合と言われていますがそうでしょうか?

労働者一人一人では、経営者に対して弱い、したがって労働者が手を繋いで対抗する。このため、次の全てが法によって保障された団体を労働組合といわれています。


結社の自由

団結の自由

思想信条の自由

権力からの独立

支配からの独立


そして次の3つの権利が与えられている(労働3権)

団結権 団体交渉権 争議権

3つの自由と2つの独立はありませんし、争議権もないので先進国の労働組合との比較はできません。

中国工会は、日本はじめ先進国では労働組合とは認められないほど、おとなしい組織です。

したがって、工会が企業の発展の邪魔になることはありえなく"育てれば"、企業内のよき牽制機関、パートナーになり、ストライキの抑止力となり得ます。

健全な労使関係の構築

 "育てれば"、とはどういうことかを考えてみます。

(1)団体交渉・労使協議等を通じて、相互理解を得る

 協議・交渉の場を作り、主に下記を協議します。当初は全く協議にはならない幼稚な質疑に終始しますが、根気よく協議ができるようになるまで育てます。会員(社員)に、我が工会はがんばっているなと信じて貰えなければ、当てにしません。

①会社の経営方針と将来目標および計画の理解

②安定的経営継続のための利益と労務費の関係

③生産性の向上と賃金の向上との関係

④賃金決定の仕組み

⑤労働者の要求内容と経営状態との関係 などの協議


(2)職場集会等による労働者への指導・徹底と意見集約

労働者が頼りにする組織となるかどうかは、職場の意見・要求の吸収と指導力にかかっています。定期大会以外にも、職場会・職場集会などを通じて次のことができるように教育します。

①労働者の要求意見や要求の集約

②労働者の無理な要求の抑制指導

③職場の問題点や不満の吸収と解消

④会社の考え方、状態の説明と徹底

⑤ストライキ、サボタージュの不当性と不利益の理解 など


(3)集団契約(労働協約)の締結

法律では義務化しているが、現状はなくても黙認しています。しかし、2012年までに義務化の動きは明確です。この契約をしてはじめて労使は対等といえます。

集団契約の内容

債務的部分(労使が債権債務の関係を設定する)

1.前文的条項・・・工会(社員代表組織含む、以下同じ)の承認、団体交渉権、経営権の確認等(道義的規定)

2.工会の会員資格に関する条項・・・社員の強制加入制か任意加入制か(一企業一団体しか認めていない中国では強制加入)、非会員適用範囲等

3.労働団体活動に関する条項・・・就業時間中の扱い、専従者の処遇等

4.団体交渉に関する条項・・・交渉時の数、交渉事項の範囲、交渉手続、唯一交渉団体交渉事項等

5.争議条項・・・平和条項、争議の範囲と予告・抑制活動等


制度的部分

6.各種機関に関する条項・・・苦情処理機関、経営協議会、紛争処理機関等


規範的部分

7.賃金や労働条件に関する条項

8.人事に関する条項

9.福利厚生に関する条項


その他部分

10.集団契約の有効期間に関する条項


(4)労使関係の自治

まず、労使協議制の工夫改善が必要です。苦情処理制度など協議のための制度的裏づけも社内に作ります。そして、あくまで話し合いの精神で、企業内での自主解決を貫きます。相手を上部団体に押しやれば、それが習慣化します。上部団体の支配介入は絶対に避け、「手作りの労使関係」を築きたいものです。


(5)労働者代表の経営参加

法的には経営参加が義務付けられていますが、現実的には、労働者の実力として時間がかかる課題です。まずは、労使協議制の充実(経営協議会設立等)により真摯な協議を通じて教育していくしか方法はありません。労使での専門審議機関による相互研鑽および教育研修などにより教育をします。いずれは強制化されます。それまでに良好な関係を構築しましょう。


(6)労働者代表組織の現実的な問題

中国の労働者は、工会などの労働者団体加入を嫌がる傾向があり、役員には、誰も立候補しません。だからといって、管理者を工会役員にすえれば、労使交渉の場ではなくなりますし、労働者が頼りにはしなくなり、ストライキという実力行使に走ります。

しかし、労働団体の指導を出来る者もいません。工会上部も頼りにできないと思うべきです。

実質的には、貴方が根気よく育成するしか方法はありません。


現代中国の労働運動は、スタート点に立ったばかりです。

日本の現代労働運動および労使関係は、中国としてもお手本となっています。

自信をもって、あくまで話し合い、協調の精神で、中国のよき精神(互恵・互譲・平等・対等)も加えて、健全な労使関係を構築していただきたい。

佐藤 忠幸

佐藤中国経営研究所 代表 (上海在住)

専門分野
企業管理・人事労務・労使関係・品質管理・幹部・5S研修・社内規定

電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。

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