2010年09月17日(金)

労働関係法軽視の経営はもう成り立たない

佐藤中国経営研究所  佐藤忠幸


今号の王、福岡両専門家からの寄稿記事を読むとお分かりのように、日本では労働基準法が施行されてから63年も経っていますが、未だに違反率が60数%もあるのは何故でしょうか?また、年次有給休暇の取得率は、先進国では最低の30数%しかないのは何故でしょうか?

その理由よりも問題なのは、そういう前提で成り立っている日本式労務管理は、現状の中国では全く通じないということです。

非常に古い日本の労働基準法

日本の労働基準法は、労働に関する規制等を定める法律であり労働組合法、労働関係調整法と共に、いわゆる労働三法の一つです。

日本国憲法27条2項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」とし、これを受けて1947年(昭和22年)に制定されました。1985年に女子差別撤廃条約批准に伴う国内法整備の為に改正され、女子の保護規定が削除された。その後1987年改正で、週40時間労働制、変形労働時間制、裁量労働制、フレックスタイム制などを導入しました。その後も数年おきに改正はなされましたが、根本的な改正は未だしておりません。

労働基準法における基準は最低限の基準であり、この基準での労働条件の実効性を確保するために、地方自治体や企業内において独自の制度や労働契約がなされています。

新しい中国労働関係法

日本の労働基準法に相当する中国の「労働法」は、1995年1月施行。日本の労働組合法に相当する中国の「工会法」は1992年4月施行、2001年10月改定と、いずれも、日本のそれに比べて真新しいものばかりです。それでも、いわゆる改革開放・市場経済が進んだ2000年以降の実態から見ると不備な点が多く、それを補うべく、さらに世界の先進的な内容加えて出来たのが2008年1月施行の「労働契約法」です。


これらの定めは、日本と同じく最低限の基準であり、この基準での労働条件の実効性を確保するために、地方自治体や企業内において独自の制度が設けられているのも日本と変りありません。

日中双方とも当初は努力目標

日中双方とも、労働関係法は最低限の基準を示したものですが、施行された当初の経済環境では、むしろ努力目標的な存在でした。地域経済の発展を優先する地方政府は、黙認する姿勢が目立ちました。それは、今でも日中双方に続いており、特に地元密着型中小企業にはお目こぼしをしています。中小企業のためを考えての施策が仇となり、企業経営者にコンプライアンス軽視の悪弊を生んでしまったのが実情でしょう。

日本の企業経営はお家主義

日本の労働者は、法で保護された年休など多くの権利をなぜか放棄しています。これは、企業一家あるいは古き時代の「お家第一主義」から来た習慣であり、美風ともとられています。

その「美風」は、日本だけに通じる古典的なものだと割り切っていただきたい。当然、中国では通じません。いや中国だけでなく何処の世界でも通じません。

労働契約法施行により環境一変

中国には、日本から数万社の中小企業が進出しています。その多くの企業は、数年前まで「中国は法治国家ではなく、人治国家だ」と教わり「上に方策があれば、下に対策あり」を実践し、それに適した人事責任者を置いてきたのは前号で記したとおりです。

しかし、2008年の労働契約法施行により、(法治国家に生まれ変わろうという)中央政府の姿勢が強く出され罰則規定も設けられるなど、地方政府も監査せざるを得なくなり、その環境は一変しました。あわせて「労働者は経営者に対して弱いものだ」という「資本主義的」理論も肯定され、労働者保護の性格を強く打ち出しました。

仲裁制度を含めた労働訴訟も気軽にできるようになりました。

加えて、中央政府が推し進める所得倍増政策の影響が強く出始めました。

地方政府は、いつまでも企業側に立っていることはできません。

外資系企業には中国企業の模範を求められる

日系企業も、中国にあれば中国企業です。中国にあれば中国の法に従って経営しなければなりません。「だったら、中国系の中小企業と同じように法律軽視でよいだろう?」勘違いしないで欲しいのは、中小企業でも日系企業なら、中国企業ではあると同時に「外資系企業」です。

外資系企業は、大企業と同様に厳格さが求められます。内資系企業を守るという差別だけではありません。市場経済を含めた豊かな先進国から進出してきた外資系企業は、後進国の中国に模範を示して法律遵守をするのは当然だという前提があり、中国政府の願望でもあります。


中国は「世界の工場」から「世界の市場」へ脱皮しようとしています。必然的に日系企業も変わらざるを得ません。「世界の市場」でエンジョイするためには、エンジョイさせてくれる国のコンプライアンスを軽視することはできません。法の裏をかくようなことは考えずに、立法の精神を尊重して、中国政府が日系企業に求める「模範的中国企業」にならない限り、中国での存続はあり得ないと思うべきでしょう。

佐藤 忠幸

佐藤中国経営研究所 代表 (上海在住)

専門分野
企業管理・人事労務・労使関係・品質管理・幹部・5S研修・社内規定

電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。

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