2015年06月12日(金)

放任のつけ

佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸


 企業の3大資源は「ヒト・モノ・カネ」といわれています。

 中でも人事管理と財務管理は、中国での企業経営の要であることはご承知の通りです。もちろん、モノが作れなければお話になれませんし、それを売ることが出来なければ何のために作ったのか分かりません。したがって製造や営業に力を入れることは当然です。だからと言って、人事管理と財務管理を放っておいては経営放棄と同じです。

 では、中国現地法人の社長(総経理)の認識は如何でしょうか。

事例 放任のつけ

 蘇州郊外のS社は10年ほど前に日本側90%出資と地元有力者10%出資の合弁会社を設立した。当時は工業団地がなく、地元有力者の協力なくして農地転換等ができなかったからである。役員(非常勤)と副社長各1名を地元有力者から出すことも決まった。副社長は地元有力者の一族。日本側から出す社長は、人事及び財務面に弱いので地元の副社長が管理することが決まった。

 社長は、人事及び財務管理の全てを副社長に任せてしまった。結果は、何時の間にか金が絡む部門の責任者全てが副社長一族・一派に占められた。副社長の親族は、S社と同業のT社を作り、S社の設備・備品を休日に持出し、S社監督者もT社で休日に労働させていた。社員食堂担当者は、材料費のバックマージンを受け、材料を水増し発注し余剰材を転売して儲けていた。それらを、取り締まるべき警備員も一族であり、わざと見逃していた。管理面に弱い日本人社長よりも、人事と財務を握る副社長が実質的な権力者となってしまい、良識派幹部は全て退職した。副社長の存在を脅かしそうな者は一切採用せず、親会社が直接採用して送り込んだ幹部もいじめで辞めさせてしまった。

 副社長を辞めさせるためには有力者の株を買い取らなければならず手間取り、その間にS社は腐った。

幹部は苦手をつくるな!克服せよ!

 日系企業の多くは、社長はじめ高級幹部には日本から管理者を送り込みます。会社経営経験はないか少ない方が大部分です。しかも、製造あるいは技術系か営業の管理経験のみで、人事や財務畑出身者は稀です。だから駄目とは言いません。問題は、自分の欠けている部分を認識し補うための学習をしているか、克服する努力をしているかです。

組織に属するよりも「老板(ラオパン)」に属する

 中国では組織に対する帰属意識が薄いため、ピラミッド的組織を作ることが困難であると言われています。むしろ親分子分の関係で組織が成り立ち、その親分(老板)への信頼関係で多くの成否が決まります。信頼関係の評価基準は、親分への忠誠度、それに対する見返り利益です。企業であれば、評価と昇給・賞与、それと、よい仕事の機会をもらうことです。

 エコヒイキをして、特定の者ばかりに利益を与えていれば、その老板組織は局部的なものにしかなりません。大組織なら、機会均等・公平公正でなければ老板として尊敬されず、組織は当然分裂崩壊します。人事制度の重要性がここにあります。

 「事例」は、社長が老板でなく、異なる者が老板となった悲劇です。

任せろ、しかし放任するな!

 人事や財務の責任者は中国人とする企業が大半です。いろいろな関係および現地化のため、それらは必要でもありますが、社長および日本人管理者がそこにどこまで関心をもっているか、どの程度チェックしているかが問題です。財務でいえば、決算書・原価計算書などの財務諸表および出金伝票の承認段階で「チェックせずにサイン」しないことが重要です。どこに金があり、どこに財産がある、どこに不正があるか見抜ける眼力を養っていただきたい。人事面では、採用と制度運用を放っておけば何時の間にか、不正仲間か不正を許す者ばかりを幹部の中枢に据えられてしまい、会社は悪の棲家となり、悪に食い放題にされます。「事例」はその典型です。

 

 「ヒト・モノ・カネ」の内2つまでを放任するのは経営放棄であり背信行為です。

 苦手な分野でも関心をもち、努力をすれば必ず克服できます。その気になって真剣に見れば(看れば)辻つまの合わないところが見えてきますよ。

 日本にいたのではできないチャンスと捉え、努力し学んでいただきたいものです。

佐藤 忠幸

佐藤中国経営研究所 代表 (上海在住)

専門分野
企業管理・人事労務・労使関係・品質管理・幹部・5S研修・社内規定

電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。

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