2010年05月10日(月)

微妙に違うからこそおもしろい中日文化6-意味が変化したことば-

ビジネスマナー・ビジネス日本語 講師 島田 由利子


 苦手なことわざを一つあげてください、と尋ねられたとき、迷うことなく「旅の恥はかき捨て」をあげます。これを実行すれば、マナーをわきまえない、傍若無人なふるまいになってしまうからです。江戸時代ならともかく、この国際化社会の中では、個人の行動や言動は時としてその人の国全体のイメージになってしまいますし、日本国内でも、観光地でのひどい落書きに対しては、旅の恥はかきすて、ということわざが使われ、非難されています。ただ、このことわざの意味は、決してわるいものではないという説もあります。故郷を出て別の地方に行ったときには、わからないことがあった時には、恥ずかしいと思わずに聞いたり、知らないことを知ろうとしたりしなさい、という教えに基づいているというものです。つまり、知らない場所では恥ずかしがらずにいろんなことにチャレンジできる、というとらえ方です。ただ、はっきりした資料がないので特定はできませんが。

 このことわざを別にして、日本語の中には、本来の意味と異なる解釈の方が世間で浸透しているものがあります。間違った解釈と知らずに使われているものもあり、また、異なる解釈の方が市民権を得ているものもあり、さまざまです。

役不足

 自分にはその仕事は責任が重すぎる、という意味合いで、謙遜して使っている方を時折見かけますが、本来は、その人の力量に比べて役目が軽すぎる、という意味です。もし会社で「自分には役不足です」と言ったとしたら、かなり自信家だと思われるでしょう。

流れに棹さす

 時流に逆らっていく、ととらえがちですが、本来の意味は、時流に合わせていくということです。つまり、棹を使って流れを下るように大勢のまま進む、ということです。

なしくずし(済し崩し)

 やらなければならないことをほったらかしにする、という意味で使われている場合があります。「そういうことを済し崩しにしないで、ちゃんと解決しなければ」というように使われています。が、本来は、物事を少しずつすましていくこと、という意味です。なしくずしに既成事実が出来上がる、という使われ方が正解です。

憮然

 憮然として部屋を出て行った、と聞くと、腹をたてて部屋を出て行った、と考える人がかなり多いと思いますが、実際は、失望してぼんやりとしている様子のことです。つまり、失望や不満でむなしくやりきれない思いでいる様子のことなので、「憮然としてたちつくす」は、怒っているわけではないんです。


情けは人のためならず

 これは、よく引き合いに出されるのでご存知の方も多いと思いますが、情けをかけるとその相手のためにならない、ととらえている方が多いようですが、本来は、情けを人にかける、人に親切にすることで、めぐりめぐって自分によい報いがある、という意味ですね。

犬も歩けば棒に当たる

 もともとは、犬が出歩くと棒で叩かれることがあるように、人間も出しゃばるとろくなことがない、という意味でした。ところが次第に意味が転じて、近頃は、動き回ると思いがけず幸運なできごとに遭遇することがある、だからどんどん積極的に行動しなさい、という意味に使われるようになりました。これなどは変化した使われ方の方が広く受け入れられている例です。

火中の栗を拾う

 火中の栗を拾った人は、危険があるのを省みず勇気がある人・・ではないのです。「自分の利益にならないのに他人のために危険をおかす事」が本来の意味です。西洋の寓話からきていることばで、「結果、馬鹿を見る」という意味合いも含まれています。

一姫二太郎

 初めは女の子で次は男の子、もしくは、女の子一人に男の子二人。前者の意味で使う方もいれば、後者の意味で使う方もいます。本来は、第一子が女の子で第二子が男の子、という意味です


また、中国出典の言葉の中にも、微妙な変化がおきているものがあります。

君子豹変

 本来は、君子は過ちをただちに改め、面目を一新するという意味です。つまり、人格者は、あやまちを改めてからよいことをする、その移り方が極めてはっきりしている、ということですね。今の日本では、急に、しかも勝手に都合よく変える、といった、あまりよくない意味で使っている人が多いようです。しかも権力者ではあるが人格者ではない人に(?)よく使われます。出典は「易経」です。

破天荒

 今まで誰もしなかったことを初めてすること、前代未聞、未曾有、と同じ意味です。たとえば、「破天荒の大事業」というように使われます。唐の時代、官吏登用試験の合格者が1名も出ず、人々から「天荒」と言われていた地域で初めて合格者が出て、「天荒を破った」と言われたという中国の故事からきています。今の日本では、豪快で大胆、という意味で、破天荒な人間、という使われ方を目にすることがありますが、これは誤った使われ方ですね。


微妙に違うからこそ面白い中日文化、興味が尽きません。

島田 由利子

ビジネスマナー・ビジネス日本語 講師 (上海在住)

専門分野
ビジネスマナー・日本語講師

日米および香港・上海での長く幅広い社会経験から裏打ちされた、ビジネスマナーおよび語学指導に好評を得る。
各種研修と講演および各誌コラム執筆多数。

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島田 由利子
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