2010年09月17日(金)

微妙に違うからこそおもしろい中日文化9-“結構”を一日何回使っていますか?-

ビジネスマナー・ビジネス日本語 講師 島田 由利子


 陽射しの強烈な夏のある日、中国朋友から、"結構"はどういう意味ですか?と聞かれ、どんな時に使われていましたか?前後の文は?と質問したところ、あなたがよく使っているので、という思いもかけぬ答えが返ってきて少々びっくりしたことがありました。「私が?よく使っている?」。口癖は確かに人から指摘されて初めて気がつくものですが、それでも指摘されると、ああ、そうかも、と少しは納得できるのでは、と思っていましたが、"結構"はまったく予想だにしておらず、驚きました。それ以来、この"結構"という、それほど特別な感じのしない言葉に、俄然注目し、意識するようになり、この二文字が実にさまざまな意味を持っていることを改めて確認するに至りました。今回は"結構"について少しお話したいと思います。


 まず、形容動詞としての"結構"ということばは、申し分がないこととか、いいこととして使われる肯定的な意味合いがあります。よく引き合いに出される例文に、「結構なお手前で」がありますが、これは申し分がないということです。「それが本当なら結構な話ですよね」これもいい話であるということです。「結構なご身分ですね」は、元々は人から羨ましがられるようないい身分という意味でしたが、最近では、冗談ッポク使われることも多いようです。また、賛成の意味を含む言い方もあります。「党首討論大いに結構―鳩山首相」という見出しはまさしくその意味ですね。それから、十分とかよろしい、といった意味もあります。「その件は明日で結構です」、「1000円あれば結構です」などはそういった使われ方です。

 ただ、"結構"ということばには、必要ない、といった否定的な意味合いもあります。男性から「お送りしましょうか?」と聞かれ、「結構です、一人で帰りますから」と女性が言ったとしたら、その男性は少なからず傷つくでしょう。「コーヒー要りますか?」「結構です」も不必要であるとのメッセージです。日本で偶々見たあるテレビドラマで、デパートのファッション売り場を舞台にしたものがありました。そこで部下役の女性が上司役の女性にいろいろ仕事の報告をするのですが、その上司の返答が"結構"の一言で、そのたびに部下役の女性が、今のはどっちだ?怒られたのか?誉められたのか?と自問していたシーンが印象に残っています。このように、形容動詞としての"結構"には正反対の意味があり、誤解が生じかねない言葉であるため、ビジネスの現場ではあまり使わない方が無難だと思います。特に、その意味合いが正確には伝わり難い中国では、使わない方がよさそうです。


 そして、私がよく使っていると指摘された、副詞としての"結構"です。先日トーク番組などを意識して聞いたのですが、この言葉をいろいろな場面でよく耳にすることが分かりました。正直、かなり多くの方が無意識に使っていらっしゃるのではないでしょうか。「いろいろな場面でよく耳にする」という表現も、「結構いろいろな場面で」、とか、「いろいろ場面で結構耳にします」というように使われるわけです。"結構"が表す範囲は、受け手からすると、かなり、相当、といったレベルから、そこそこ、なかなか、といったレベルまでありますが、そこには、思ったよりも、とか、意外にも、といったニュアンスが含まれている場合が多いように感じます。「あの高いと評判のレストラン、どうでした?」「それが結構お客さん多かったんですよ」とか、「この道具少し旧式だけど結構役に立つ」とか、「怖いと聞いていたけど結構いい先生だった」といった使い方がそれにあたります。そして、意識して聞くうちに、"結構"ということばをこれほどよく耳にするのは、非常に便利なことばだからではないか、と思うようになりました。トーク番組などで聞かれる「結構インドア派なので」、「趣味は料理ですね、結構作るんですよ」、「結構親身になってくれて」など、以前は特に気にとめなかった使い方です。割合に、という言葉よりは程度も頻度も高く、でも、かなり、という言葉を使うまではいかない、という時に使われることが多いと思います。非常に好き>かなり好き>結構好き>割合に好き>まあまあ好き、という感じでしょうか。


 曖昧な表現が多く、というよりは曖昧であるほうを良しとする傾向がある日本語ですが、"結構"ということばはその感覚にぴったりの言葉なのかもしれません。

"結構"をよく使うと言われて結構驚いた私ですが、人さまから指摘してもらえるのは結構なことなので、結構うれしかったです。。。

これはやりすぎの例ですが、皆さんも一度、結構がどれぐらい使われているか気にとめてみられるのもおもしろいかもしれません。新語・流行語が闊歩する今の日本で、これほど普通の言葉がこれほどよく使われていることを知ったのは、私にとっては新鮮な驚きでした。結構なことでございました。

島田 由利子

ビジネスマナー・ビジネス日本語 講師 (上海在住)

専門分野
ビジネスマナー・日本語講師

日米および香港・上海での長く幅広い社会経験から裏打ちされた、ビジネスマナーおよび語学指導に好評を得る。
各種研修と講演および各誌コラム執筆多数。

この顧問・専門家のブログを見る

島田 由利子
このHRAホームページの先頭へ