2010年01月19日(火)

企業のリスクマネジメントと保険 その2

労災事故と保険


宜安保険経紀有限公司 日系企業本部長兼上海分公司副総経理
高見 均


労働災害の死亡者は05年に比べ09年は約半減したと言われていますが、化学工場の爆発事故や炭鉱事故はこのところ目につきますし、交通事故を含めた労災事故はまだまだ数多くあります。今回はこの様な労災事故に備えた保険対応と問題点について考察します。


万一の労災(工傷)事故に備えた保険は十分でしょうか?

Ⅰ.労災(工傷)事故に備えた保険

一般的には政府管掌の労災(工傷)保険の上乗せとして掛けられる保険は雇主責任保険や人身意外傷害保険です。


<日系損保の代表的な保険例>

人身意外保険(傷害保険)の概要

従業員の日常生活における急激かつ外来の偶然な事故による
主契約:傷害死亡保険金(約定金額)、後遺障害(後遺障害の程度に応じた金額)
特約付帯:治療費用(実費)や入院手当等を担保します。
24時間補償の対象となります。また、本保険の責任範囲を就業中に限定(特約付帯)した引受も可能です。

雇主責任険の概要

従業員の労災事故により雇用主(契約者)が負う法律上の賠償責任を補償します。
従業員(臨時工・見習いを含む)が就業中及び通勤途上の傷害や死亡・後遺障害、職業性疾病により、労災認定された場合に、雇用主として中国の「工傷保険条例」に基づき負担する経済的損害賠償金を補償します。
契約方式は以下のように簡易な契約手続きが可能です。業種等により保険料が異なりますが、従事者数と年間予想賃金により初年度の暫定保険料が算出されます。保険期間終了後に、賃金総額実績(通知)に基づき確定精算をします。


企業の保険リスクヘッジに、上記保険の付保をお薦めいたしたいと思います。


中国国内保険会社では補償されないものがあります


上海市行政管轄区内以外、例えば近隣の江蘇省(蘇州市や南京市、常州市など)、或いは浙江省(杭州市など)地域の現地法人が保険を付保する場合、大企業(大規模物件:年間保険料40万元以上かつ投資額1.5億元以上)を除き、この地域では、まだ日系損害保険会社の営業認可は下りていないため中国国内保険会社に付保せざるを得ません。しかしながら、中国国内保険会社に雇主責任保険を付保したとしても重要な部分が穴抜けになってしまうということです。

それは「後遺障害の労働能力障害が7級~10級の場合で労働契約終了または労働者本人から労働契約の解除を申し入れた場合、雇用単位は一括工傷医療補助金と廃疾就業補助金を支払わなければならない。」と工傷保険条例で定められていますが、この場合、企業の負担は、10万元を超えることが多く、この負担部分は工傷保険基金からの支払いはありませんので企業にとっては大きな負担となります。
問題なのは、この基金から支払われない部分をカバーするために、せっかく上乗せとして雇主責任保険を掛けたつもりであっても中国国内保険会社の雇主責任険では、支払われません


何故この様なことが起きるのか?これは工傷保険条例が2004年に施行され、それ以前からあった中国国内保険会社の雇主責任険では本条例施行以前には払う必要は無いため支払った実績がなく、本条例施行以降も法律上の賠償責任を補償するという約款は改訂されないまま、この支払い基準が変わらず履行されているものと思われます。

このことは、各種セミナーでご説明していますが、注意が必要です。
では、どうすればよいか?
この部分を補填する保険もありますし、違う形でカバーすることも可能です。
詳しくは、企業により諸条件が異なりますので、お問い合わせください。

Ⅱ.通勤途上の自動車事故と労災保険の関係


現行「労災保険条例」は2004年1月に施行されましたが、 社会経済状況の変化により、問題が多く発生することで改正することになり、現在パブリックコメントを募集しています。

主な内容のひとつとして、出退勤時の自動車事故によって負傷した場合の労災認定に関する事由を定めた当該条例第14条(六)項、「出退勤途中、自動車事故にあい怪我を負った場合」が削除されています。

これは主に実務において、出退勤時の自動車事故をどのように確定するのかという論争がしばしば起こり、運用が難しいうえ、労災認定が困難であるということ考慮したものであり、また2006年に施行された自動車事故責任強制保険制度により、出退勤時の自動車事故で負傷した従業員が自動車事故責任強制保険から補償を得ることが可能になったこと、及び民事賠償による解決が可能になったことも関係しているようです。
出退勤途中、自動車事故による怪我等が労災認定から除外され、機動車交通事故責任強制保険制度の適用と


上乗せの商業保険の範疇となれば、確かに認定等の煩雑さは回避され、すっきりしたかと思います。
反面、通勤途上については、自賠責保険及び商業自動車保険に頼るわけですので、交通事故防止対策に真剣に取り組まなければならないと思います。

日欧米に比べ、中国では車両保有台数に対する交通事故死亡者の割合が高く、交通事故の極めて多い現状(08年死亡者:73,990人、08年:日本の1台当たりの死亡者数の約6.7倍)です。自動車保険部門では各保険会社のリザルト(保険成績)が極めて悪く、保険料が割高となっています。今後、交通違反や取り締まりならびに社会全体の交通マナー改善も含めた事故防止活動をしなければ交通事故は減らず、この保険分野の優良化は厳しく保険料も下がらないものと思われます。

高見 均

宜安保険経紀有限公司 日系企業本部長兼上海分公司副総経理
(上海在住)

専門分野
企業リスクマネージメント・労働災害対策・企業資産保護

大学法学部卒業後、大手物流会社の機関代理店勤務 (通算27年)。
基板関連冶具メーカ役員を経て、保険ブローカーに転進。中国においては数少ない保険ブローカーとして、中国全土を回り、有効な保険をかけるべく指導している。物流会社およびメーカ勤務経験を活かして、労働災害に関する造詣は深い。

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