2010年03月26日(金)

中国における債権回収事情を知る二つのキーワード「討債」・「執行難」

上海開澤律師事務所 パートナー弁護士 王 穏


中国の新赴任者から、「現地法人の前年度の会計監査報告を見ると、売掛債権、特に期限到来した債権が一向に回収されず未回収債権となっているものが目立つ」という話を聞きます。

毎年3月になると、日本本社から中国現地に赴任する駐在員の方が多くなります。今回は新任駐在員の方のために、中国における債権回収事情をキーワードで解説します。

(また、これをテーマに、HR研究会が5月13日(木)に蘇州、6月に上海でそれぞれ催す「リスクマネージメントセミナー」でも詳細にご説明いたします。)


■「討債」――債務者が強い。

■「執行難」――勝訴判決は、紙くず同様になってしまう。

1.「討債」――債務者が強い。

【中国語の意味】

「債」は言葉通り債務になりますが、この「討」とは、相手に対して謙りまるで乞うが如くお願いする意味です。

債権者が債務者のご機嫌を伺い、債務弁済をお願いすることが「討債」になります。


【事例】

日系企業のA社は、債務弁済を債務者であるB社に求めたところ、B社は「お金がないのでどうしようもない」と開き直り、逆にA社がB社の管理職や財務担当者に、懇願し一日も早く債務弁済する破目になってしまった。


債務者が強いことは、中国では残念ながら一般化した現象でもあります。幾分改善されているとは言え、買い掛け債務を期限前に支払わねばならないという意識が薄い人が少なくありません。債務を負っているので、直ちに弁済できないことを引け目に感じない人も多く、あまり執拗に督促するものなら逆切れするケースも見られます。


債権者と債務者がこのように中国では逆転しており、債務者が悠長に堂々と債権督促に対応する理由は、債権者が債権取立ての即効性のある方法を持ってないことに尽きます。訴訟をしても時間、費用がかかる上、必ず勝てるわけではなく、勝ったとしても、回収できるとは限りません。


一部の企業では、財務担当者に、「財務の仕事は、期限到来した債務を期限どおりにきちんと弁済するのではなく、いかにして期限到来した債務を弁済しないことが仕事である」とトップから指示されているとよく言われます。銀行から融資を受ければ金利支払いが生じ、担保を求められますので、融資よりまず先に債務弁済すべき額を流用するほうが得になるわけです。


企業の管理者、財務担当者に電話をかけ債務弁済を督促するものの完全に債務を否定する場合は別として、一応債務を認めながらも何らかの理由でごまかそうとします。参考までにそ、の何らかの理由を例示しますと以下のようになります。


■お金がない。

■第三者からの債権が回収できていないので、支払うお金がない。

■董事長、総経理からの支払いの指示がまだない。

■金額がまだ確定していないので、社内稟議中につき、待ってほしい。

■出張(ある大きなビジネスを行っているとか)中で忙しいので、しばらく待ってほしい。

■分割払い(悪質な場合は6年分割とか長期で)にしてほしい。

■更に納品してもらってから支払う。

2.「執行難」――勝訴判決は、紙くず同様になってしまう。

【中国語の意味】

強制執行は(非常に)難しいことを「執行難」といいます。

ウェブサイトで検索した場合、中国の国会に当たる全人代でも毎回開催時に「執行難」を挙げています。言い換えれば毎回全人代で注目されるほど強制執行が難しいことを表しています。


【事例】

債務者C社に対して、時間がかかったものの勝訴判決を得た。しかし、やはり弁済しないので、早速裁判所に強制執行を申し立てたところ、裁判所からC社の資産明細を提供しないと強制執行のしようがないといわれた。

これを受け調査会社で苦労してC社の資産の明細を手に入れたところ、価値のある土地、建物があった。それでも裁判所はすぐ強制執行を実施せず不動産関連ではいろいろ複雑な手続きがあり、更に裁判所内部の都合があり(連休になったら、動かず、他の執行案件があるから手が回らない)、1年過ぎてようやく執行できた。


勝訴判決が債務弁済に直結すると思ったら大間違いになる場合があります。裁判で負けたから債務を弁済しなればならないなと思う企業もあるものの、まったく動じない企業も少なくありません。


強制執行を申したてるためには、自ら債務者の資産状況を調べなければなりません。資産がないのであれば、お手上げ状態になります。仮に資産があるとしても、裁判所や地方政府の地元保護主義で少なくとも数ヶ月かかってしまいます。資産を隠匿したい企業は、この数ヶ月間で資産を隠す余裕が出るぐらいの長い期間です。


執行が難しいため判決の権威が損なわれます。判決の権威が損なわれるから、債務者が債務を抱え込んでも動じず、時には強くなるわけです。

【まとめ】

金融危機の影響もあると思われますが、日系企業を含む外資企業にも、債務不弁済の現象が増えています。中国では、このような事情は年々改善していくとは思われますが、「執行難」で「討債」をしなければなりません。

実際、固定客との取引も含めて、債務不弁済のリスクが常にあります。いかにこのリスクを抑えながら、事業展開していくかが、勝ち組と負け組の分かれ目になるともいえると思います。また、長期間弁済されない債権は時期を見て企業として何らかの処理が必要になると思います。このような事態にならないためにも、企業として債権管理を社内に徹底し、手遅れにならないように日ごろから注意すべきと思います。


債権管理については、次回に解説いたします。

王 穏

ジョイ・ハンド(開澤)法律事務所 パートナー弁護士 (上海在住)

専門分野
投資スキーム・行政許認可・労務管理・契約法

東京大学法学士、一橋大学民法修士卒業後、黒田法律事務所、アンダーソン・毛利法律事務所、TMI総合法律事務所、中倫金通法律事務所等の大手法律事務所で経験を積む。
2003年には、「中国投資・契約交渉の実務」を出版するなど、寄稿多数。
日系大手銀行、中小企業基盤整備機構、海外職業訓練協会主催のセミナーなど日系企業向けのセミナー、講演は多数。

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