2010年03月26日

如何にして労働者の能力不足を認定するか?降格と減給について

上海麗宝商務諮詢有限公司 総経理 叶 暁


会社は労働者の能力不足という理由で降格と減給をしたが、その必要性など人事評価制度が欠けていることによって、企業が敗訴した事例を紹介します。

[争点]

A社はBに対しての降格および減給の決定は合法か?

[事例]

Bは2006年11月1日にA社に入社し、3年間の労働契約を締結した。労働契約は、Bを人事部長で給与は22500元人民元とした。

2007年7月、A社はBを人事部長では対して能力不足だと認定し、給与はそのままで人事顧問に降格と通知したが、Bは受け入れなかった。

しかし、A社は8月7日、一方的にはBを人事顧問に降格し、さらに9月24日、Bに「給与調整の通知書」を発送し、Bの給与を6000元に減額した。Bはその通知書を受け取ったことは認めたが、降格と減給の決定には異議を唱え仕事の引継ぎに協力しなかった。

9月28日、Bは仲裁委員会に訴訟を提起し、「降格および減給の決定を取り消し、元の職務に回復」を求めた。

A社の抗弁:Bは2006年11月1日入社前後、求人募集案内、求人サイド、新人教育および話合いなどで、人事部長の職責を明確に知らせた。会社がBに対し降格及び減給の決定はBがその職責に対して能力不足の為であり会社の正常運営と管理の為である。

Bは入社以来9ヶ月間、人事部長として為すべき業務は何一つ完成していない。Bの能力不足は会社の業務運営に大きいな影響を与えた。「労働者が持ち場に対して能力不足の場合、企業は“育成訓練をさせる”或いは“持ち場を調整する”」ことは「労動法」第26条によって、会社に与えられた権利である。

[審理結果]

仲裁委員会は:Bは2006年11月1日にA会社に入社し、労働契約を締結したがBは会社から具体的な職責説明を得ていない。A社は親会社の[人事部長職責指導書]を提出したが、親会社の資料の為、証拠として採用されなかった。

また、会社はBが入社後に職責に対する能力についての審査評価を行わなかった。会社は電子メールなどを証拠として提出したが、Bの能力不足だと証明できなかった。

そして、双方は「労働契約」の中で約定した「相互の通知・要求・同意、或いはその他の資料は書面で従業員の住所に届けることで有効とする」は双方の真実の意思表示であり双方は厳格に遂行すべきである。A社のBに対しての降格および減給の決定は速やかに書面でBに告知してなく、明らかに違約である。

労働仲裁委員会は2007年12月3日に「A社のBに対しての降格および減給の決定を取り消し、双方は元の労働契約を引き続き履行すべき。」と裁決した

A社は裁判所に訴え、仲裁委員会の裁決を取り消すように求めた。

2008年2月、裁判所の調停の下A社とBは和解した。

[研究]

1、会社は従業員を、能力不足の理由で一方的に降格・配置転換および減給をできるか

[労動法]と[労働契約法]の規定によって、労働者は配属先・職位に対して能力不足の場合、教育訓練或いは配置転換をした後も未だ能力不足だと認定された場合は、企業は労働契約を解除することができます。

原則的に、労働者の同意を得ずに企業は一方的に労働者の配属先・職位と給与その他の労働条件を変更することはできません。しかし、労働者が配属先・職位に対して能力不足の場合、企業は一方的にその配属先・職位を変更することができ、“配属先・職位変更に伴って、給与変更可能”の原則によって労働者の給与を調整することができます。

 

2、挙証責任問題について

[最高人民法院の労働争議案件審理時適用法律若干問題の解釈]第13条が「労働契約解除、労働報酬の減少、労働者勤務年数の計算等について、企業に挙証責任がある」と規定しています。

したがって、Bの職位に対する能力不足についてA社が証明する責任があります。

 

3、A社はBに対しての降格および減給の決定は合法か

(1)配属先・職位に対して能力不足との認定基準について

「労動部が(労動法)若干条文に関しての説明について」の第26条:配属先職責に対する能力不足は、労働者が労働契約で約定した任務或いは担当職場・担当職務の業務量を達成できない。企業は故意に規定量の標準を高めて、労働者に完成させないようにしてはならない。

よって、労働者が配属先職責に対して能力不足かどうか判断するためには、企業が労働者の職務或いは業務量を明確にすることから始まります。

当事例では、会社がBに職責を一度も明確化していなく、A社が提出した各種の証明書はBの職務・職責を明確にしたものなく、しかも本人の確認も得ていません。よって、客観性真実性の角度からならびにその他の角度から考察しても、Bを能力不足と認定できる標準は無いと判断されます。

 

(2)配属先・職位に対して能力不足の結論はどうやって出すか?

労働者が職責に対して能力不足かどうかは、企業の主観で判断してはなりません。法律適用の公平・公正の原則によって決めた標準で、労働者の働きに対して評価した後に決定すべきです。すなわち、人事評価は会社が公布した人事評価制度で行わなければなりません。

当事例は、会社がBに対していかなる評価も行っていない状態で、すぐ“職責に対する能力不足”を理由に、その配属を変更し減給することは明らかに客観性および合理性に欠けることになります。

 

(3)配置転換・職務変更及び減給決定の通知について

原則として、書面にて直接労働者本人に通知します。本人が不在の場合、一緒に住む成人親族に署名して受け取ってもらいます。郵送で通知する場合は、配達証明書の上に明記した到着日付を通知日付とします。配達不可能な場合、新聞等で公布することができ、30日後に通知したと見なします。

当事例は、会社はBに直接通知書を渡し、Bも署名しているので当配達は有効です。

[結論]

A社はBが入社した後、ずっとその職責と職務要求基準を明確化・具体化せず、評価可能に制定していません。そしてA社はBに対していかなる人事考課を行っていません。よって、この状況でBに対して一方的に職務変更および減給決定をしたのは根拠不足であって、法律違反となります。

法律では会社と労働者の間で労働契約解除と終了条件を約定することを禁じています。但し、労働契約に変更条件を双方約定することについては禁止していないし制限もしていません。

労働部<給料支払い暫定規定>についての補充規定]第3条:法律に基ついて契約した労働契約の中に明確に規定、あるいは企業の規則制度の中に明確に規定してある場合、企業が労働者に対する罰金と減給については法律に違反しない。

上海市高級人民法院[労働争議審理若干問題についての解答]中にも、労働契約中明確に約定した仕事内容と給料報酬の調整をする場合、約定に従い履行すべきである。

したがって、企業としては事前に人事評価制度などの規則・規定を確立・公示する必要性を再認識していただきたい。それでなければ、労働者の配置転換・職務変更や減給をした場合、訴訟され確実に負けるでしょう。

叶 暁

上海麗宝商務咨詢有限公司 総経理 (上海在住)

専門分野
労働関係法・企業法・労働仲裁

日本の近畿大学法学部および大阪大学大学院法学研究科卒業後は上海へ戻り、コンサルタント会社の設立に参加共同経営後現在に至る。日系企業の、設立代行から不動産と人材確保および経営相談・指導を含めた各種コンサルティングおよび社員研修を行なっており、日中間ならびに企業・人材の架け橋として努めている。
各社顧問と各種セミナー講師多数。

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