2010年06月30日(水)

現状認識不足による制度ミス「老人カード」2

上海誠鋭実業有限公司 総経理 叶 家胤


「老人無料乗車制度」の制定と実施にさまざまな問題が存在していることを前号で紹介しました。無料乗車する老人に対する嫌がらせ事件を解決するために、発行されたICチップが埋め込まれている「老人カード」は逆に経済利益を最大化したい民営バス会社に悪用され、補助金を出す財政に過大請求をしていたと思われます。問題の解決策を模索している政府にとって、思わぬところにさらに厄介な問題が発生しました。

「老人カード」の売買

老人無料乗車制度の対象者は70歳以上のお年寄りです。平均寿命が日本とほぼ同じである上海では健康的な老人は多くいます。しかし、70歳以上のお年寄りの中には寝たきり、歩けない方々も多数います。年齢以外の制限がないので、それら確実に、バス・地下鉄を利用しないお年寄りたちにも「老人カード」が発行されています。

もちろん、その「老人カード」はそれらのお年寄りたちにとって何も利用価値がないはずですが、「商機に敏感な」お年寄りまたその家族・友人及び一部の不良企業はその利用価値のない「老人カード」の市場価値を発見しました。

 その内の、バス・地下鉄をよく利用する宅配便を経営している物流会社の例を紹介します。

上海市内の宅配便配達はバスと地下鉄を利用している場合が多いので、宅配便業者にとって、その運賃は大きなコストになっています。運賃コスト削減手段として、「老人無料乗車制度」の「老人カード」を利用することが重要な一つとなっています。

 バス・地下鉄を利用しない老人から「老人カード」を購入すれば、バス・地下鉄はすべて無料になります。その「老人カード」の取引価格は100元から数百元ぐらいだそうです。高だか数百元の「コスト」によって、膨大な運賃節減ができることは物流会社にとって最大限の利益確保となります。売った老人達にとっても、本来無価値の「老人カード」によって、小遣いができて喜ばしいことです。

 売買双方にとって利益の最大化が実現でき、「win-win」のビジネスモデルとして、本当に最高ですね?!

見てみないふりするバス会社

金銭取引ではないものの、お年寄りが「老人カード」を家族、友人に貸し出すケースもあります。宅配便会社の若い従業員たち、老人の家族、友人たちが「老人カード」を使ってバスを乗る時に発覚されないかという疑問を持っている読者もいるかと思いますが、その問題はすでに「クリア」されています。

バスに設置されている読み取り機械に「老人カード」を当てると、その機械は「老人カード」と大きな音で一回読み上げます。運転手または車掌はカード所持者を見れば、70歳以上かどうかは大体判別できます。バスをよく利用する私も時々「老人カード」を使用する20代、30代ぐらいの「老人」を見ます。視力が弱い筆者ですら「老人カード」所持者の年齢を見抜けるほどですから、運転手・車掌たちが見落とすと思えません。

では、なぜ運転手と車掌はその明らかな不正を指摘しないのでしょうか。

 前号で紹介しましたが、財政は読み取られた「老人カード」の回数によって、一般乗車者と同様な金額でバス会社に補助金を出します。つまり、運転手と車掌にとって、「老人カード」が読み取られれば、自分の評価、収入に何も影響されません。

一方、不正を指摘したら、その「老人カード」の所持者と喧嘩になりかねないなど面倒なことが起こされるリスクが大きいので、たとえ、20歳の「老人」が目の前で「老人カード」を使用しても、黙認するのは運転手・車掌にとって「賢明な」選択でしょうね。

このような「老人カード」不正使用する環境が存在しているので、「老人カード」を売買するマーケットが成立してしまいました。

深刻な社会問題

 うまく「老人無料乗車制度」を利用している「老人」と「物流会社」は得になり、バス会社も損していません。しかし、誰もそのように「win-win-win」の制度を良い制度だと思っていませんよね。なぜなら、その「win-win-win」の背後に、補助金を出している財政、根本的に財政の出処である我々納税人たちの利益が大きく損害されているからです。

 前号で紹介した老人に対する嫌がらせ事件、バス会社の不正請求を、制度の設計ミスだと分析しましたが、今回の「老人カード」の売買現象は、もっと深刻な社会問題だと思われます。

全体的モラルの低い社会環境で「老人無料乗車制度」を実施するとき、関連罰則の制定と実施は現実的に必要だと思われます。

「社会的好意」を売った老人、不良の物流会社、無作為のバス会社に罰則を与えなければ、現在の社会環境では「老人無料乗車制度」を正しく実行することは無理なようです。

(悲しい現状ですが)


「社会的責任」の宣伝は積極的に行われていますが、物流会社・バス会社に罰則を与えるのは「企業の社会的責任」、一部のお年寄りに罰則を与えることは「公民の社会的責任」を教える最高の具体的な教育になると思います。

企業の制度改革も同じ

「老人無料乗車制度」の実施によって、多くの設計ミス、実行問題が浮上されてしまいました。制度の制定者はそれらの問題を直視し分析し、勇気をもって決断行動をしなければ、解決できません。それは会社の制度改革、あるいは確立をしたい経営者・管理者にとっても全く同じではありませんか。



(このコラムは、2008年~2009年発行の誠鋭時事掲載記事より転載編集)

叶 家胤

上海誠鋭実業有限公司 総経理 (上海在住)

専門分野
企業管理・会計、税務管理

日本の、流通経済大学および産能大学大学院経営情報研究科卒業(MBA取得)後は上海へ戻り、コンサルタント会社を設立し、日系企業の各種経営相談・指導を行っている。2003年より異業種交流会『上海ビジネスフォーラム』を主宰しながら、各種雑誌にコラム掲載および各社顧問と各種セミナー講師多数。

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