2010年11月17日(水)

狂っている計器メーター③

上海誠鋭実業有限公司 総経理 叶 家胤


 自動車計器盤の役割を果たしている、国家運営における「統計」、および企業経営における「会計」が不正確になる概ねの理由を前号で分析しました。

計器が狂っている自動車運転の危険性はだれでもわかります。

ガソリンメーターが壊れて、実際よりガソリン残量が多く表示されれば、運転手の判断ミスが引き起こされ、目的地に到着する途中でガス欠となってしまいます。車を最寄りのガソリンスタントまで押して歩くことになりますが、疲れるだけでまだマシです。

スピードメーターが狂っている車を運転するのはもっと恐ろしいことになります。

高速道路でICに降りるとき、必ずスピードメーターを確認しろと自動車教習場の教官に厳しく言われた記憶があります。長く100Kmぐらいの走行スピードに慣れた後、本線から出口までの40Km制限道路を走る時、実際低速に切換えたつもりでも、感覚は実際のスピードより遅くなる錯覚があります。つまり、40Kmで走行しているつもりでも、実際のスピードは60Kmになっている可能性があります。その道路が40Kmでしか通過できないカーブ設計がされているのに60Kmで差し掛かれば、当然曲がり切れず、事故になります。

したがって、客観的な計器を見ろと教習教官に注意されます。

しかし、もし感覚より事実を教えてくれるそのスピードメーターが狂っていたら、・・・。


国の運営、会社の経営にとって重要な「統計」と「会計」が狂っていれば、上記の事例と同じ判断ミス、及び事故に遭遇する可能性は高いといえます。


そのような事例は数えきれないほどありますが、もちろん全ての事例紹介はできませんので、いくつか典型的なものを分析したいと思います。

上昇した平均給与統計

 「統計」も会計も、「過去」に発生した事実の記録ですので、その記録が不正確であっても「今後」にとっては何も問題ないと思っている方も多数います。その方々を「会計(統計)無用論者」と呼ばせていただきます。前号で挙げた統計局が発表した平均給与の事例を考えてみましょう。


金融危機の影響によって、大量に従業員解雇、減給を行っている外資系、民営系企業をサンプル対象から外させ、本来社会全体の「事実」を反映すべき統計データは国営企業のみの「事実」にすりかえられ、大半の人民から「嘘つき」と反発されたのはなぜでしょう。収入減少という社会全体の「事実」を間違って反映されても、それは「過去」ですので、今更国営企業という偽りの「事実」を正しくさせても、「減給」という「過去」の「事実」を「昇給」に変えることができるわけではありません。おそらく、その考えは上記の「会計(統計)無用論者」の論点でしょう。


しかし、国、各地方はなぜ毎年その「無用」なデータを発表しているでしょうね。人の生活水準が向上しているように粉飾したいという理由以外に、そのデータによる「今後」の社会保険料金が決まる役割もあります。

毎年の社会保険金ランク及び具体的な負担率等の指標は基本的に前年度の地域平均給与で決められています。つまり、大雑把にいえば今年の平均給与が増加すれば、来年度の社会保険金支払額が多くなります。サラリーマンの社会保険料は法規上「会社負担」と「個人負担」になっていますが、多くの日系企業の給与は手取り額で決めています。このため、社会保険金は事実上全額「会社負担」としています。そうなると、増加した社会保険金の全てが会社の費用増になります


もし、「直接人件費=手取給与+社会保険金」を考える場合、例え昇給しなくても、自社でコントロールできない前年度「平均給与統計」の上昇により社会保険金が上がるので、直接人件費が上昇することになります。

平均給与統計上昇によって、従業員の社会保険金も増えることを人民の生活水準向上に繋がるという目的であれば、その間違った(偽りとも言えるが)平均給与統計の発表によって、もっともっと金融危機で苦しんでいる企業の人件費を直接押し上げ、さらに経営難になる企業が解雇或いは減給をせざるを得ない結果となります。従業員の保険金が上昇するどころか、減給か失業まで生活の水準降下になることと、勝手に考える政府の希望に反する結果まで発展してしまいます。


不正確な統計データによって、本来人民の生活向上としている目標達成が逆方向に発展してしまうのは「上昇した平均給与統計」の弊害です。

「過去」のデータは決して過去の記録として読むだけではなく、その「過去」より「将来」は何をすべきかを決めることから、「過去」と「将来」の関連性が高いということをこの事例で多少ご理解できると思います。


次号は引き続き不正確な統計・会計データによる弊害を皆さんと一緒に考えてみたいと思います。


つづく

叶 家胤

上海誠鋭実業有限公司 総経理 (上海在住)

専門分野
企業管理・会計、税務管理

日本の、流通経済大学および産能大学大学院経営情報研究科卒業(MBA取得)後は上海へ戻り、コンサルタント会社を設立し、日系企業の各種経営相談・指導を行っている。2003年より異業種交流会『上海ビジネスフォーラム』を主宰しながら、各種雑誌にコラム掲載および各社顧問と各種セミナー講師多数。

この顧問・専門家のブログを見る

メール ホームページ

叶 家胤
このHRAホームページの先頭へ