2011年11月14日(月)

狂っている計器盤 その①

上海誠鋭実業有限公司 総経理 叶 家胤


 自動車の計器盤が壊れて、スピード、ガソリン残量、冷却水温度など、車の状態を表すメーター表示が狂っていたとします。その車を運転してくれますか、というお願いを皆さんにすれば、「怖くて、いや~だ!」というお答えが大半でしょうね。 しかし、そのような車が経済発展という高速道路を猛スピードで走っています。その名は「中国」と云います。

不正確な中国統計

  2010年2月、中国国家統計局が発表した「2009年国民経済と社会発展統計公報」の中で、2009年において大中都市70の不動産販売価格が1.5%上昇したと発表され、あまりにも実態とかけ離れていると全土から疑問と反発の声が上がりました。3月になって、国家統計局長がその統計数字に対して、統計の方法と範囲に確かに問題があり、改善しなければならないという談話を発表し、事実上の統計ミスを認めました。 しかし、国家レベルの不動産販売価格という項目だけでなく、中国各級政府の統計部門、各種項目の統計数字について、以前から信憑性が低いと非難されています。

 急激な経済発展を実現している中国は、まさに高速道路を走っている車に例えられます。その車の計器盤の役割を果たしているのは統計局に他なりません。不正確な統計データは狂っている計器盤と同じです。不正確情報に頼って、自動車が高速道路を走行するということは、想像するだけでも怖いですね。

企業経営は、国家運営と共通の部分が多くあります。

国家の統計局は、会社でいうと「会計部門」になります。会計情報は統計データと同様な役割を果たします。つまり、「会計部門」は「企業」という車の計器盤であり、その情報が不正確であれば、計器盤が狂ったことになります。 しかし、その狂っている計器盤を見ながら走っているのは「中国」だけではなく、「日系企業」という車も多数存在しているのは事実です。 車が企業であれば、その企業の経営者は運転手になります。 運転手は目的地を設定し、そこに到達する路線を考えます。その行為は経営上の「経営計画」に相当します。

 運転手は路面状況を確認しながら障害物、渋滞を避けながら車を進行させます。その行為は経営上の「市場調査」に相当します。

 運転手は計器盤を見て、車のガソリン残量、走行スピードを確認しながら、いつ給油するか、スピード違反していないかという判断をし、車を安全、持続的に運転します。その行為は経営上の「財務会計」、「管理会計」に基づく経営判断に相当します。

中国の子会社はリモコン・カー?

 車を安全、迅速に目的地に到着させるために、上記の能力は運転手に必要とされること誰でも認識できるでしょうが、なぜか一部の日系企業経営者たちにとっては別のようです。

  • 「経営計画」は親会社が作成してくれる
  • 製品は全部親会社に売るので「市場調査」は必要がない
  • 会計という仕事は今までやったことがないので分からない

と言った話はよく聞かされます。そのように説明をしている経営者が属している企業はまるで親会社のリモコン・カーのようです。それなら運転手である経営者は不要ですね。

  子会社とはいえ、中国では立派な独立法人である以上、その経営者が述べる前記の話は言い訳としか聞こえません。「できない」から職務放棄するのではなく、「できない」から勉強し、できるようにするのは、運転席に座った経営者の正しい考えではないでしょうか。

計器盤の正確性を確認しないで経営可能?

 冒頭のお願いに対して、計器盤が壊れた車は運転したくないと答える人でも、なぜか企業経営者になれば、例え計器盤が狂っても(会計データが不正確でも)平気で企業という車を運転してしまいます。そして、計器盤を読めない(会計が分からない)からと言って、平気で計器盤の正確性を確認しないままで運転する経営者が多いのは何故でしょうか?

 中国の統計数字が不正確であることを、多くの日系企業経営者が笑い話の種としています。しかし、その方たちが自ら不正確な会計データに基づいて経営していることを考えると、あまりにも皮肉ではないでしょうか。

続く

(誠鋭時事2010年3月号より抜粋転載)

叶 家胤

上海誠鋭実業有限公司 総経理 (上海在住)

専門分野
企業管理・会計、税務管理

日本の、流通経済大学および産能大学大学院経営情報研究科卒業(MBA取得)後は上海へ戻り、コンサルタント会社を設立し、日系企業の各種経営相談・指導を行っている。2003年より異業種交流会『上海ビジネスフォーラム』を主宰しながら、各種雑誌にコラム掲載および各社顧問と各種セミナー講師多数。

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