順利包装集団 福喜多俊夫
中国で会社を経営するとき、業績目標達成に向けて色々手を打つわけですが、中国人スタッフは“今やることが利を生むかどうか”で、やることの価値を判断する傾向があり、なかなか目標に向かって一致団結ということにはなりません。
そこで色々試行錯誤を重ねた結果、スタッフの向上心、キャリアアップ志向を会社の業績に結びつける方法として目標管理が有効な道具となるのではないかと考えました。
中国は日本と違って、スタッフとオペレーターの力量差が大きいので、目標管理を生産現場に適用するのが難しいですが、生産現場はQCの小集団活動と組み合わせることで適用が可能です。
目標管理の狙い
目標管理は、さまざまな効果が期待出来るため、多用な狙いで組織に導入されています。中嶋哲夫氏(*1)によると、目標管理は「組織の取り組み姿勢によってどうにでも変化する」という特徴を持っており、運用の力点の置き方によって同じ目標管理でも異なった効果を上げることが出来るという多様性があります。産能大学の調査では、目標管理の狙いは、1)チャレンジの奨励、2)評価基準の明確化、3)組織目標と個人目標の統合の三つが主たる狙いとされています。組織目標に沿ってチャレンジし、それを評価するという狙いが重視されているわけです。
(*1:目標管理活用便覧 産労総合研究所)
筆者が日本で勤務していた会社も目標管理制度を採用していましたが、会社の意図がどうであったかは別にして、中間管理職であった筆者にとって目標管理は、
- 組織目標と個人目標の統合
- チャレンジの奨励
- 管理者のマネジメント力向上
の3点で有用でした。
目標管理の狙いには多様性がありますから、それぞれの会社で狙いは異なると思いますが、中国で目標管理を成功させるためには、
1)スタッフが会社経営者に対して常に要求あるいは期待している、“自分が何を、どれだけ、いつまでにすれば、待遇、給与がどうなるのか”ということと、
2)組織の達成目標を連動させるように制度設計を行う必要があります。 すなわち、
- 評価基準の明確化
- チャレンジの奨励(向上心、キャリアアップの鼓舞)
- 組織目標と個人目標の統合
を主たる狙いとすることがポイントです。
目標管理の制度設計
(1)制度設計の基本姿勢
目標管理は価値ある(すなわち、組織と個人の目標が統合され、かつチャレンジ性のあるもの)目標を設定し、それを展開・評価するサイクル(PDS:Plan-Do-See)を回すことによって目標を達成する管理行動です。
すなわち、目標管理は“マネジメントシステム”であり、“評価システム”です。
したがって、制度設計においては、評価システムという視点に偏らず、マネジメントシステムの視点から、Plan(目標の設定)-Do(目標の遂行)-See(目標の評価)というマネジメントサイクルがうまく回るように、それぞれのプロセスを自己統制(セルフマネジメント)出来るように設計しなければなりません。
中国で目標管理を実行する場合、経営者は“いかに明快な言葉で経営目標を部下に伝えるか”がポイントとなります。中国では“阿吽(あうん)の呼吸”は存在しませんから、目標を簡潔、明瞭な言葉で具体的に示さねば共有化されません。また、それを文章化して誰が見ても同じ理解が出来る(勿論、受け手の感性によってインパクトは変わってくるのは避けられませんが)ようにしなければなりません。この方針を受け止めてスタッフは自分の“何を、どれだけ、いつまでに”という目標が設定出来るわけです。
また、目標は職務特性に合わせて設計する必要があります。
①ルーチン業務の多い職場(製造、営業事務)
②ある程度予測がつく仕事(営業、商品化研究)
③結果が評価し難い仕事(研究、制作スタッフ)
(2)目標管理は結果に重きをおく
目標管理制度では結果に重きをおくのか、プロセスに重きをおくのかが議論になります。これは職責によって異なります。
管理職は結果(部門成果)に重点がおかれ、下位職ほど結果(部門成果)を出すための手段的な目標が増える傾向があります。目標は到達目標が明確で数値化出来るものは数値化し、数値化出来ないものは到達点が明確になるようなステートメントで記述するようにします。
(3)既存の諸システムとの整合性
多くの企業には種々のマネジメントシステムが導入され実施されています。最近、大抵の会社には品質システム(ISO9001)と環境システム(ISO14001)が導入され、経営システムとして長期計画、中期計画、単年度計画などが設定されます。はじめて目標管理制度を導入するときこれらとの整合性が問題となります。ここでは、余り難しく考えずに、目標管理は単年度計画を個人目標にブレークダウンしたものと考えればいいと思います。
部門長は目標管理制度を導入する前でも、組織目標を立て、それを達成するための実行計画を作り、組織目標達成のための役割分担を決め、定期的に部下の業務の進捗管理を行い、必要に応じて部下に支援を与えていたはずですし、メンバーは自分なりの目標と実行計画を立てていたはずですから、これまでやっていたことが体系的に整理された状態となる、と考えれば導入に抵抗はないと思います。
ただ、中小企業では文章化するという訓練がなされていませんからここに抵抗があるでしょう。しかし、ここに狙いのひとつがあって、文章化することによって頭が整理され、自分の考えが自分で確認出来ます。また、進捗を自分で管理することが容易になります。
(4)目標管理の対象者
中国で目標管理を実施する場合は現地の役員、総経理(社長)以下全員に適用すべきです。
ただ、日本本社の兼任役員は場合によっては除外します。役員、総経理クラスも目標管理を行うほうがよい理由はマネジメントシステムとしての目標の連鎖が明確になるからです。
目標管理を人事考課と結びつけて運用する場合の条件としては、
①一人ひとりの役割分担が明確になっていること
②その中で個人の裁量の余地があること
の二つがあります。
チームで作業をしている製造現場は目標管理が適用し難い職場ですが、この場合は品質管理の小集団活動にならって、チームで目標を設定し、成果を評価することによって製造現場の活性化につなげることが可能となります。
(5)目標管理と人事考課との連動
目標達成度評価を100%人事考課に結びつけることは不可能です。
人事考課の構成は
①目標達成度評価を幹に、枝葉である、
②目標達成活動に於けるプロセス、
③目標以外の仕事の成果、
④個人の見識、
⑤他部門(他人)への協力度
を加味した多面評価のやり方を設計する必要があります。この場合、管理職は目標達成度評価のウエイトが高くなるのが普通です。
目標管理の導入に興味をもたれた方は下記までご連絡ください。「中国における小さい会社の目標管理」を差し上げます。
カネカ勤務中は米国、ベルギー、東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、フィリピン、中国、香港)の子会社管理、工場指導を担当し、関連子会社に10年ほど出向していたこともあるので、中小企業、特に海外の中小工場経営が得意。
【資格】
◇技術士(経営工学部門)
◇APECエンジニア(工学部門)
【参加団体】
◇大阪能率協会
◇技術士包装物流会
◇(財)海外職業訓練協会(OVTA) 国際アドバイザー