順利包装集団 福喜多俊夫
中国で仕事をするにあたって、中国通の先輩や中国ビジネスハウツウ本から多くの「中国ビジネスの常識」なるものを学びました。 “中国では部下の失敗は人前で叱ってはいけない”、“中国では賄賂は必要悪”、あるいは “政治や宗教の話は出来るだけしない方がよい”など、たくさんあります。 中国と関わりをもって15年以上、中国に住んで10年、そのあいだ多くの中国人ビジネスマンと付き合い、自社の工場長の従業員対応を観察し、また、自分の経験から、本に書かれている「中国ビジネスの常識」の中には、“これはちょっと違うのではないか”と考え直すことがいくつかありました。
1.中国では部下の失敗は人前で叱ってはいけない
多くの中国ハウツウ本に中国人はメンツを大事にするから、部下が失敗や間違いを犯しても人前で叱らず、別室に呼んで注意するよう配慮しなければならない、と書いてあります。 私もそう信じて、人前では注意しないように気をつけていました。 しかし、あるとき自社の華東地区総経理のやり方を見ていて疑問を持ちました。 我社の総経理は部下が失敗をすれば、それを全員の前でオープンにして叱り、会社に損失を与えた場合は罰則まで与えています。 従業員はそれに恨みを抱くような様子はありません。 これは我社の総経理だけかと思って、懇意にしている中国人総経理数人にこのことを確認したところ、“えこひいきさえしなければ人前で叱っても全然問題ない、むしろ日本人は中国人のメンツを気にしすぎて遠慮しているから、かえってなめられているのだよ”と言われました。
どうやら日本人は“中国人のメンツを慮るあまり、部下を増長させている”可能性があります。最近では、公平性に注意しながら、部下の失敗は人前であろうがその場で注意し、自分の失敗を自覚してもらうことに重きを置いています。
逆に、褒めるべきことを人前でしていないことも日本人の欠陥だと思います。公平・公正に部下をみているのであれば、それを発見したらその場で、叱り、褒めるべきです。
2.中国では政治や宗教の話はしない方がよい
これも多くの本に書いてあります。 私もこれはある面その通りだと思います。 しかし、私の経験から言えば、避けていても政治や戦争や宗教の話題に立ち向かわねばならないときがあります。 そのような場合に逃げるのはよくないと思います。 政治の話では“共産党の正統性に関わる”話は絶対に避けるべきですが、政府の経済施策についてはかなり自由な議論が出来ますし、戦争の話題についても、中国と日本の第二次世界大戦における立場の違い(中国は日本と戦争をした。 日本は中国に対しては加害者であるが、一方では米国からは無差別爆撃を受けた被害者でもある)を説明する姿勢が必要です。 宗教の話は、中国は一応信教の自由は認められています(共産党は無宗教ですが)。 中国人に信者の多い儒教も仏教もキリスト教や回教と違って絶対神をもたない宗教ですが、日本は八百万の神がいる多神教の国であることを説明する程度のことは必要だと思います。 いずれにしても、お互いが否定しあうのではなく、立場をきちんと話す姿勢が大事だと思います。
3.中国は人治主義の国、契約意識が乏しい
上に法あれば、下に方策あり、といわれる国ですから、これもある面正しいのですが、中国の法律はいいかげんだとなめてかかっては間違いが起きます。 中国の法体系はかなり整備されてきています。 中国で仕事をしていると、取引先と家族ぐるみの付き合いをするほど親しくなり、取引にあたって契約を交わす際も、中小企業の場合はお互いの信頼関係で簡単な契約で済ませることになりがちですが、揉め事は信頼関係が崩れた時に起きるものですから、その段階では口約束は通用しません。 契約書だけが最後の砦です。 いいかげんな契約書を交わしていると、相手は契約書の不備を徹底的に突いてきます。 簡単な契約だと思っても顧問弁護士に細部を確認してもらうことが必要です。
4.中国にはイジメはない
ある本に、中国にはイジメはないと書いてありましたが、私の観察では学校でも職場でもイジメは存在しています。 友人の子供(中学生)の話では、学校でのイジメは言葉のイジメが多いようです。 会社では上司によるパワハラ、意地悪などいっぱいあります。 日中合弁会社で経営権を中国側が握っている会社にひとりで出向された方は往々にして“情報疎外”イジメに遭いますから気をつけてください。
5.中国では賄賂は必要悪
これも、ある面その通りなのですが、何でもかんでも“中国では賄賂があたりまえ”と考えてしまうと間違いが起きます。 営業担当が“客先がバックマージンを要求しているので、取引をするためには支払わざるを得ない”といってきた場合は、営業担当との間に闇取引は無いか疑う必要がありますし、バックマージンを払ってまでやる取引か考える必要があります。 日系企業が相手の場合、購買担当者の言うがままにバックマージンを払っていると、社内で公になって、以降取引停止になった会社もあります。 地方政府の役人との交渉の場合も、若い役人の中には国際感覚豊かで是々非々の対応を好む人も増えているので、中国は賄賂社会という一方的な思い込みはビジネスの社会では慎むべきだと思います。
6.中国では酒が飲めないとダメ
一昔前の中国では“酒が飲めないのは男じゃない”という風潮がありました。 私はコップ半分のビールでも真っ赤になるほどお酒が弱く、米国では昼間にお酒で赤い顔をしている人は“レッドネック”といって蔑まれたので、米国駐在中は親しい友人とのプライベートな席以外ではお酒は飲まなかったのですが、中国では酒席は大事なビジネスの場と言われ、中国ビジネスに携わった当初は無理して付き合っていました。 しかし、中国も変化しています。 北部では今でもアルコール度の高い白酒での乾杯の習慣が残っていますが、東部、南部ではビール、葡萄酒が増え、お酒の弱い人には無理強いしなくなっています。
私も最近は、最初の乾杯の時だけ、ビールを口につけますが、以降は杯を伏せて、酒を受け付けない体質だといって誰の杯も受けないことにしています。 中国でも酒の席で“随意”が普通になってきました。 お酒の飲めない人は無理をして体を壊さないようにしてください。
中国はどんどん変化している
中国ビジネスがはじめての人も、長く中国ビジネスに携わっていて中国を熟知していると自信のある人も、自分がこれまで常識と思っていたことが、様々な場面で覆される場面にあうことが多くなると思います。 中国はどんどん変化しており、今の中国は10年前の中国と違うということを深く理解しなければなりません。
しかし、本質的な部分で変わらないところもたくさんあります。 中国に住む醍醐味は、この急速に発展する国でどんどん変化していく部分と変わらない部分のギャップを観察する楽しさにあります。
カネカ勤務中は米国、ベルギー、東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、フィリピン、中国、香港)の子会社管理、工場指導を担当し、関連子会社に10年ほど出向していたこともあるので、中小企業、特に海外の中小工場経営が得意。
【資格】
◇技術士(経営工学部門)
◇APECエンジニア(工学部門)
【参加団体】
◇大阪能率協会
◇技術士包装物流会
◇(財)海外職業訓練協会(OVTA) 国際アドバイザー