順利包装集団 福喜多俊夫
製造業では不良原因の究明に“なぜなぜ5回”は常識になっています。私も工場では不良やクレームが発生するたびに、工場長に「“なぜなぜ5回”で原因を突き止めなさい」と指示していました。“なぜなぜ5回”は「なぜ」を繰り返しながら、発生している事態の原因を突き止め、再発防止策を導くもので、経験的に「なぜ」を5回繰り返せば、真の原因にたどり着けるとされています。
昨年、我社の工場で自動車内装材の不良が頻発し、不良品が検査をすり抜けて顧客まで流出するという事故が一度ならず発生しました。この対策に最後まで苦労したのは“ポカミス”防止でしたが、もうひとつ気付かされたのは、私が重視し、指導していた”なぜなぜ5回“に潜む落とし穴でした。
1.“なぜなぜ5回”で突き止めようとする対象があいまい
我社で発生した内装部品の不良品流出事故は、プラスチック成型品に不織布やピンを取り付ける後加工工程での不良品の流出でした。品質保証担当者は直ちに品質会議を招集して原因を究明し、再発防止策を立てようとしました。 私が出席していたので、品質経理は“なぜなぜ5回”を意識して製造部門に質問を繰り返し、流出原因にたどり着こうとしていましたが、原因追求すべき対象が絞り込めておらず、なかなか納得できる原因に到達しませんでした。
この場合、全社品質保証の立場から明確にすべき対象は次の3つです。
- なぜ不良品が発生したか(この場合は不織布貼り忘れ)
- なぜ検査をすり抜けて流出したか
- 営業は事故発生の影響を最小限にするため、顧客に対する対応をきちんとやったか
「なぜなぜ分析」をする場合は、はじめに原因追求と対策を必要とする課題を明確にしておかねばピントハズレの結論になってしまう恐れがあります。
2.「なぜ」は5回にこだわるな
私は自動車メーカー(内装材メーカーを含めて)との付き合いが長いので、「なぜなぜ分析」の手法として自動車メーカーが多用する“なぜなぜ5回”が刷り込まれています。
しかし、「なぜ」は原因にたどり着くために繰り返すものなので、5回で必ず原因が見つかるわけではありません。類似原因をならべて“なぜなぜ5回”をやったから、真の原因にたどり着いたと勘違いして、そこで原因追求を終えてしまうことも起こりがちです。
3.“なぜなぜ”の途中で怒らない。怒るとそこで原因究明が停止する
上司は「なぜなぜ分析」の途中で怒り出さないことが大切です。なぜ?なぜ?と質問しているうちに、単純なミスや設備不良が大きなクレームを引き起こした(この段階では設備不良の原因が追求されていないにもかかわらず)と判断して、そこで怒りを爆発させる管理者がいます。そうすると、品質会議に参加していたメンバーは居心地が悪い会議を早く終了させたくて、設備不良の原因がきちんと分析されることなく、原因追求が「設備不良」ということで終了し、「毎朝始業前点検を必ず行う」というあいまいな対策が出来上がってしまいます。我社でもこういうことが度々ありました。ワンマン総経理の会社ではよく見られることです。
“なぜなぜ5回”は製造部門だけでなくあらゆるビジネスの場で有用です。「なぜ」のねらいを外さず、冷静に論理的に再発防止策が出てくるまで「なぜ」を繰り返すことを心がけましょう。
カネカ勤務中は米国、ベルギー、東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、フィリピン、中国、香港)の子会社管理、工場指導を担当し、関連子会社に10年ほど出向していたこともあるので、中小企業、特に海外の中小工場経営が得意。
【資格】
◇技術士(経営工学部門)
◇APECエンジニア(工学部門)
【参加団体】
◇大阪能率協会
◇技術士包装物流会
◇(財)海外職業訓練協会(OVTA) 国際アドバイザー