順利包装集団 福喜多俊夫
中国で生産工場を経営していて苦労するのが品質保証です。「品質は検査で作るものではなく、工程でつくるもの」といい続けて数年、成型工程の外観不良や品質異常は殆ど無くなりましたが、最後まで残ったのが後加工工程(作業員による手作業工程)のポカミスです。中小企業は自動車や電子機器等の部品産業の一番手作業の多い部分を担当することが多いので、皆様、作業員のポカミスに悩まされているのではないでしょうか。
1.日本で成功した管理手法が中国でも通じるとは限らない
日本の製造現場では、大企業だけでなく中小企業の従業員、パートのおばさんに至るまでかなり優秀で、作業員がある程度工程検査の役割も果たし、作業途中で不具合が発生するとすぐに気がついて作業を止め、職長に連絡して処置をとることが日常化しています。このため、現場で知らないうちに不良品が山積みになっている、などということはあまり起きません。 また、小集団活動による「カイゼン」にも積極的に取り組んでくれます。 しかし、中国では監督者層と現場オペレーターのレベル差が歴然としており、日本のように作業員が自主的に行動していると考えて現場管理をすると間違いが起きます。 中国では作業者の能力に依存する管理手法は通用しません。
もうひとつ中国での工場管理が難しいのは離職率が高いことです。 筆者の関係している広東省東莞市の工場では従業員200名のうち、20名くらいが毎月入れ替わります。 もっとも入れ替わるのは今月採用した20名のうち18名が辞め、また新規に20名採用すると言ったように単純作業の要員が入れ替わることが多いです。 基幹人員は変動しないので操業に支障を生ずることはないのですが、これはこれで問題があり単純作業の後加工工程でのポカミスの原因となります。
中国では現場要員は流動するということを前提に、生産工程は出来るだけ単純化し、標準化しやすいようにすることが大切です。 標準化にも落とし穴があります。 作業標準を細かく定めたハンドブックを作成して現場に保管したり、表示板に貼り付けている工場がありますが、一人ひとりの作業員はいつも標準類を持って作業をしているわけではありません。 作業標準は、それぞれの作業員のやることは何か、異常発生時には誰に報告するのかが一目で分る書き方になっていることが大事です。 作業指導書における「ポイント管理」が重要な訳です。 手作業が多い後加工工程や、出荷検査工程では、個々の作業員が流れの中で自分の役割が明確になるように「この工程の作業ポイント」を抜き出して図示することも有用です。
2.中国では「現場からのカイゼン」が機能しにくい
「品質は検査で作るものではなく、工程で作るもの」、「工程改善は現場を一番良く知っている現場作業員からの提案に耳を傾ける」というのが、日本の工場管理の要諦ですが、中国ではこれが機能しません。 工程を良く知っている管理者(日本人管理者あるいは優れた中国人管理者)が「現場・現物」の精神で工程を隈なく観察し、中国の「現実」に即した改善策を自ら編み出していく必要があります。 中国ではボトムアップは期待しないほうがいいです。
中国で本当に必要なのは昔ながらの品質管理です。 統計的品質管理で発生頻度の高い不良とそれが発生している工程を見つけ出し、現場を観察して現実的な解決策を見つけなければなりません。 中国の現場こそ「基本に忠実」が必要です。
3.品質保証に王道はない
品質をよくするには「生産現場の見える化」を進め、「言い訳をしない風土」をつくり、「嘘の無い作業」をし、「出来ることのレベル」をコツコツと上げていくことが大切です。
「生産現場の見える化」を進めよう
工場の生産状況が一目でわかるように、作業状況を表示する工夫します。工場長も意外に工場の生産実態を掴んでいないものです。
「言い訳をしない風土」を作ろう
生産現場に限らず言い訳しない風土を作ることはとても大事なことです。クレームが起きると営業担当は品質保証部にクレーム票を流します。 品質保証部は生産部にクレーム票を流して調査を依頼します。 生産部はいろいろ言い訳しながら発生原因を書き出します。 誰も責任を感じていません。 営業は客先に対し、製造は営業担当に対し、適当な言い訳が見つかればそれでおしまい。 この無責任体質が品質をよく出来ない最大の原因です。
「嘘のない作業」をしよう
見学者があるときだけ工場がきれい。 QC監査のときだけ表示をあわてて作る。 作業標準はあるけど、作業員はOJTで作業を教えられているので標準類は読んだことがない。 これでは品質保証を唱えても絵に描いた餅です。 皆さんの工場でも思い当たるところがあるのではないでしょうか。
4.最後まで残るポカミス
機械のメンテナンスに気を配り、金型の定期整備を厳格に実行し、職長の技術教育と工程検査員の検査精度を上げる教育を繰り返し行ったことにより、成型工程から次工程(後加工工程)への不良品流出は殆どなくなりました。 しかし、思い出したように後加工工程や梱包工程で不具合品が発生し、最終検査をすり抜けてこの不具合品が客先へ流出してしまいます。
後加工工程のミスは殆どが付属部品の付け忘れで、梱包工程のミスは製品表示ラベルの付け間違い。 いずれも単純な「ポカミス」です。 しかし、JITで必要数量より受け入れない客先は不具合品がひとつでもあると生産工程が乱れてしまいます。
日本では後加工工程のポカミスを防止するため、その日に加工する製品の数量に見合った付属部品を前段取りで準備し、作業終了時に付属部品が余ったらどこかでつけ忘れが発生していると判断し、全数検査で不具合品を発見する等の方法を取っています。しかし、中国では付属部品にしばしば不良品があるため、必要数より多い付属部品を持ち込まざるを得ずこの方法が取れません。 試行錯誤の末たどり着いたのが、加工作業員による加工箇所確認マークの付与と検査員による梱包前マーク確認のダブルチェックです。これにより不具合品の流出は押さえられるはずだったのですが、またまた不具合品が流出してしまいました。
原因は標準動作の不履行にあります。 最終検査までプロセスは完璧に実施されており、作業員や最終検査員は不具合品を発見し、流出を止めています。 ここから先に問題がありました。 作業標準では不具合品が発生した場合は「赤箱」に入れることになっています。 しかし、部品付け忘れを発見した検査員は、部品を取り付けさせようと前工程に戻してしまいました。
ここで昼休みになり、食事の後、戻ってきた作業員は加工箇所確認マーク(1カ所抜けているのに気が付かない)が付いているので検査員が製品を置き忘れていると判断して完成品箱へ投げ込んでしまったというのが実情でした。
ヒューマンエラーは信じられないような原因で起こります。 「出荷前検査は流出防止の最後の砦」なのですが、不具合品ゼロがしばらく続くと、検査にも手抜きがはじまり、そのような時にかぎってポカミスが発生し、不具合品が外部に流出してしまいます。
ポカミス防止も、検査漏れによる流出も作業員の意識の問題なので、現在は各工程(検査も含めて)を誰が担当したのか明確にし、ミスしたら損、不具合ゼロを続けたら得という罰則と報奨で緊張状態を維持しています。 ポカミスの撲滅は本当に難しいです。
カネカ勤務中は米国、ベルギー、東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、フィリピン、中国、香港)の子会社管理、工場指導を担当し、関連子会社に10年ほど出向していたこともあるので、中小企業、特に海外の中小工場経営が得意。
【資格】
◇技術士(経営工学部門)
◇APECエンジニア(工学部門)
【参加団体】
◇大阪能率協会
◇技術士包装物流会
◇(財)海外職業訓練協会(OVTA) 国際アドバイザー