2013年09月09日(月)

“中国で働く” 22 リスクマネジメント

順利包装集団 福喜多俊夫

 中国であれ、日本であれ事業を営む上でいろいろなリスクがあり、大から小まで企業が危機に陥るケースは枚挙に暇がありません。

 起こる可能性のあることは「いつかは起こる」と思わねばなりません。これが「リスク」であり、その為の対策をとることがリスクマネジメントです。しかし、企業のまわりにはリスクは無数にあり、このリスクのすべてに対応することはとても出来ません。

すべてのリスクをマネジメントすることは出来ない

 三省堂の大辞林ではリスクマネジメントを「営業活動に伴うさまざまな危険を最小の費用で食い止める経営管理活動」とあります。「営業活動」を「企業経営」と読み替えてもいいでしょう。「さまざまな危険を最小の費用で」というところがポイントで、考えられるリスクのすべてに対応しようとすれば、多くの人員と多額の費用が掛かり、実質的に対応は不可能です。

 リスクを大きく分ければ、「経営リスク」と「社会リスク」に分けられますが、経営リスクは“事故・災害”と“事業運営上の諸問題”のリスクに細分されます。また、社会リスクは“政治・経済・社会”の変化に伴うリスクがあります。ここで考えられるリスクのすべてに対応することは出来ません。また、する必要もないでしょう。

 リスクマネジメントの基本は自社事業の信頼を損なう要因を排除すること(製造業であれば自社製品の安全性を確保すること等)および自社事業の安定を損なう要因を特定し、対応策を立てておくことだと考えます。

事業環境の変化とともにリスクも変化する

 中国事業リスクも改革開放以来大きく変化しています。1990年代は「部品・原材料の現地調達の困難さ」「販売代金の回収困難」「労働者の質の問題」「政策運営・法整備の不備」が主たるものであり、現在のような「人手不足」や「労務費高騰」はありませんでした。

 2000年代になると中国リスクも多様化し、産業構造の変化、労働者の権利意識の向上、政治リスクも顕在化してきました。事業環境の変化とともにリスクも変化します。自社の事業構造に影響するリスクの変化を見て対応を変える必要があります。

自社が対応すべきリスク

 リスクマネジメントには「起こる可能性のある損失に対する対応」と、「危機が起こってしまったあとの対応」(危機管理、クライシスマネジメント)の両方があります。中小企業は人的にも費用の面でも余裕がありませんから、事故時(営業事故、操業事故の両面で事故発生時に対応してもらう)顧問弁護士を持つのが精一杯で、リスクマネージャーやコンプライアンスの専門家を社内に置くことは少ないと思います。

 しかし、起こる可能性のあることは「いつかは起こる」ものです。少なくとも総経理および総務担当経理は、一度は専門家による「リスクマネジメント講座」を受け、リスクマネジメント入門書を読んでおく必要があります。そして、講座や入門書で紹介される実例から自社で最低限考えておかねばならないリスクマネジメント対策をとっておきましょう。

 製造業であれば、危険予知訓練や消火訓練はあたりまえとの意識がありますが、私の事例を挙げれば、社内で人身事故が発生したとき、「安全教育マニュアル」の不備と安全教育記録がとってなかったことにより、多額の罰金と行政指導を受けました。あたりまえのことがいつしかあたりまえでなくなっているのが中小企業です。

 壊れる可能性のある機械は必ず壊れるといいます。起こる可能性のあるリスクは「いつかは起こる」ことを肝に銘じて日々の業務にあたりましょう。

外国で働いているということ

 中国はいろいろありますが、総合的に見れば比較的安全な国です。しかし、あくまで外国です。何年住んでいようと緊張感を忘れないようにしましょう。上海領事館の危険情報やタウン誌の社会情報にも関心を持ちましょう。 そして大事なことは、中国と中国人に対する礼儀作法をわきまえることです。時々、日本料理店で酔っ払って大声で中国の悪口を言っている人を見かけます。普段は性質の悪い日本人だと眉をひそめている人達も、何かのきっかけで爆発するかもしれません。

 以前、「小さい危機管理」というコラムを書きましたが、これもまだ有効です。参考にしていただければと思います。

福喜多 俊夫

福喜多 俊夫

順利包装集団(総公司:香港)総裁
(上海在住)

専門分野

海外子会社管理(経営管理・工場経営・品質保証)、目標管理、包装・物流情報

カネカ勤務中は米国、ベルギー、東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、フィリピン、中国、香港)の子会社管理、工場指導を担当し、関連子会社に10年ほど出向していたこともあるので、中小企業、特に海外の中小工場経営が得意。

【資格】
◇技術士(経営工学部門)
◇APECエンジニア(工学部門)

【参加団体】
◇大阪能率協会
◇技術士包装物流会
◇(財)海外職業訓練協会(OVTA) 国際アドバイザー

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