2014年03月03日(月)

“中国で働く” 23「兵法三十六計」を知る

順利包装集団 福喜多俊夫

 中国のビジネスマンが意識の底に宿していると思われるものに「兵法三十六計」があります。「孫子の兵法」とか「三十六計逃げるにしかず」など皆さんよくご存知だと思います。

 中国の兵法は「孫子兵法」や孫子の子孫である孫臏の「孫臏兵法」などいくつも作られたそうですが、現代中国人が身につけているのは「兵法三十六計」といわれるもので、ウィキペディアによれば、成立時期は不明であるが、大体5世紀までの故事を17世紀明末清初の時代にまとめられたものだと言われています。

中国のビジネスマンはこの「兵法三十六計」をよく知っており、時々ビジネスの席で、“なるほどこれを使っているのか”と思わせられることがあります。

「兵法三十六計」とは

「孫子兵法」は十三編からなっていますが、「兵法三十六計」は大きく分けて6分野、それぞれに六計、合計三十六計から成り立っています。

 中国の書店には各種の解説本がありますが、私が参考にしたのは遠方出版社の「孫子兵法与三十六計」です。原文とその解説、応用例が記されています。日本語版でも次が出版されています。

  • 守屋洋著「兵法三十六計―世界が学んだ最高の処世術」三笠書房・知的生き方文庫(2004年)
  • 梁増美著「中国人のビジネス・ルール 兵法三十六計」ディスカバートゥエンティワン(2008年)
  • カイハン・フリッペンドルフ著/辻谷和美訳「兵法三十六計の戦略思考」ダイアモンド社(2008年)
  • 古田茂美著「兵法がわかれば中国人がわかる」 ディスカバートゥエンティワン(2011年)

 中国の兵法は戦わずして勝つことを最良の策としており、「三十六計」もあの手この手の「だましの戦略」といえないこともありません。

勝戦計:こちらが戦いの主導権を握っているときの定石

第一計 瞞天渡海(天をあざむいて、海を渡る)
普段見慣れているものは気づかれにくい、油断させて攻撃する
第二計 囲魏救趙(魏を囲んで、趙を救う)
魏の大軍が包囲している趙に正面から救援に行かず、手薄になっている魏を攻める
第三計 借刀殺人(刀を借りて、人を殺す)
自分の戦力を消耗させることなく、同盟者や第三者が敵を攻撃するように仕向ける
第四計 以逸待労(逸を以って、労を待つ)
味方の力を温存し、敵の疲れを待つ
第五計 趁火打劫(火につけこんで、おしこみを働く)
火事場泥棒。相手の弱みにつけこんでどんどん攻める。
第六計 声東撃西(東に叫んで西を撃つ)
東を攻めると見せかけて、西を攻める。 陽動作戦

敵戦計:余裕をもって戦える、あるいは同じ力の敵に対する戦略

第七計 無中生有(無中に有を生ず)
無いものをあるように見せる、あるものを無いと見せる。虚虚実実のかけひき
第八計 暗渡陳倉(ひそかに、ちんそうに渡る)
相手の虚をつき、油断している場所を攻める。迂回作戦
第九計 隔岸観火(岸を隔てて、火を観る)
相手に内紛の兆しがあるときは、じっと相手の自滅を待つ。
第十計 笑裏蔵刀(笑裏に刀をかくす)
笑顔で近づき油断を誘う。ほめ殺しもこの計の一手
第十一計 李代桃僵(すもも、桃に代わって倒れる)
皮を斬らせて肉を切り、肉を斬らせて骨を断つ
第十二計 順手牽羊(手にしたがいて、羊をひく)
少しの利益でも取れる時にとる。

攻戦計:相手が一筋縄ではいかない場合、上手く勝つための戦略

第十三計 打草驚蛇(草を打って、蛇を驚かす)
草を叩いて蛇がいるか調べる。 偵察を出して反応を探る大切さ
第十四計 借屍還魂(屍を借りて、魂を還す)
役に立つか立たないかは利用方法しだい、利用できるものは何でも利用する
第十五計 調虎離山(虎をあしらって、山を離れしむ)
敵に利のある地で戦えば、自ら負けに行くようなもの、味方に有利な地で戦う
第十六計 欲檎姑縦(とらえんと欲すれば、しばらくはなれて)
敵をわざと逃がして、気を緩ませた所を捕らえる。 交渉事でも相手の逃げ道を作る
第十七計 拠磚引玉(れんがを投げて、玉をひく)
海老で鯛を釣る戦法。 うまい話で相手を誘い出す
第十八計 擒賊擒王(賊を捕らえんには、王を捕らえよ)
日本では「将を射んとすれば、馬を射よ」という諺になっている

混戦計:相手がかなり手ごわく、乱戦時の戦略

第十九計 釜底薪抽(釜の底より、薪を抜く)
敵を直接攻撃するより、補給路を断つ。
第二十計 混水摸魚(水を混ぜて、魚をさぐる)
相手の内部混乱に乗じて勝利を収める戦略
第二十一計 金蝉脱穀(金蝉、殻を脱ぐ)
変化がないようなふりをして、移動したり、退却したりする
第二十二計 関門捉賊(門を閉ざして、賊を捕らえる)
敵の退路を断ち、包囲殲滅する。 第16計の反対
第二十三計 遠交近攻(遠く交わり、近くを攻める)
遠くの相手と同盟を組み、近くの敵を叩く。 外交戦術の基本
第二十四計 仮道伐鯱(道を借りて、鯱(かく)を討つ)
小国は救援という大義名分のもと併合してしまう

併戦計:味方同士の中で、優位に立つための戦略

第二十五計 偸梁換柱(梁をぬすみ、柱に換える)
相手の中に味方を送り込み、相手を骨抜きにする戦略
第二十六計 指桑罵槐(桑を指差して、えんじゅを罵る)
本来の相手で無い別の相手を批判し、間接的に本来の目的を達する
第二十七計 仮痴不癲(痴をいつわるも、てんせず)
愚かな振りをして、相手を油断させる。 織田信長もこの手を使った
第二十八計 上屋抽梯(屋にあげて、はしごをはずす)
二階に上げてはしごを外す。 相手をおびき出して戦力を分断する
第二十九計 樹上開花(樹上に花をさかす)
こちらを大きく見せて相手を威圧し、時間を稼ぐ。 ハッタリ戦法
第三十計 反客為主(客を反して、主となす)
客のうちはじっと耐え、機会がおとずれたらすばやく動いて主導権をとる

敗戦計:圧倒的に劣勢の場合の戦略

第三十一計 美人計(美人の計)
美人を使ってでも相手のやる気をなくさせる
第三十二計 空城計(空城の計)
わざと隙を見せて、敵の動揺を誘う。 窮余の策
第三十三計 反間計(反間(スパイ)の計)
スパイを利用し偽情報を流して相手を混乱させる
第三十四計 苦肉計(苦肉の計)
多少の犠牲は覚悟の上で行動する
第三十五計 連環計(連環の計)
敵の勢力が強大な時は正面から攻撃するのは愚策、策を練り相手の動きを弱める
第三十六計 走為上(にぐるを上となす)
勝算が無ければ戦わずして逃げ、次回に備える

三十六計個々の故事来歴、解説、ビジネスの場での応用例については前掲の書に詳しく解説されています。 また、ネットでも「兵法三十六計」で検索するといろいろ出てきます。 一度お試しください。

兵法は言うならば、中国的合理性です。

前掲書で古田茂美さんも、「一見理不尽に見える中国企業の行動の背景には、実はそれなりのロジックがある」と述べています。 兵法は中国人にとってひとつの文化だと理解して対応することが必要なのではないでしょうか。

中国でビジネスをやっていると、相手の理不尽な要求に腹が立ち、商談を打ち切りたくなることが往々にしてあります。そんな時は一息入れて、「相手はどの計で来ているのか」と冷静に分析し、計には計で立ち向かう余裕を持ちましょう。

福喜多 俊夫

福喜多 俊夫

順利包装集団(総公司:香港)総裁
(上海在住)

専門分野

海外子会社管理(経営管理・工場経営・品質保証)、目標管理、包装・物流情報

カネカ勤務中は米国、ベルギー、東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、フィリピン、中国、香港)の子会社管理、工場指導を担当し、関連子会社に10年ほど出向していたこともあるので、中小企業、特に海外の中小工場経営が得意。

【資格】
◇技術士(経営工学部門)
◇APECエンジニア(工学部門)

【参加団体】
◇大阪能率協会
◇技術士包装物流会
◇(財)海外職業訓練協会(OVTA) 国際アドバイザー

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