2014年11月17日(月)

“中国で働く” 30 「ミャンマーで考えたこと」

順利包装集団 福喜多俊夫

 先日、大阪能率協会の視察団に加わってミャンマー、バングラデシュ、タイを訪問する機会を得ました。私は中国を主たる活動場所とする中小企業・工場経営コンサルタントですが、昨今のチャイナリスクの高まりからチャイナプラスワンを考慮する企業が増えてきました。中国に来る2002年以前は、1年の半分をアジア諸国(シンガポール、マレーシア、香港、タイ、フィリピン)の工場管理で費やしていましたし、その後、マレーシア、ベトナムやカンボジアについては機会を見つけては訪問していました。しかし、最近話題のミャンマーやバングラデシュについては新聞・テレビなどのマスコミ情報でしか知らなかったのでとてもいい経験をさせてもらいました。文字通り「目から鱗」の経験でした。

事業判断に「現場主義」は必須

 ミャンマーについては、新聞やテレビニュースから民主化の進展により欧米諸国の金融制裁が解け、日本をはじめ世界中の企業が進出を競っているような印象を受けていました。日本企業も早く行かねば出遅れるのではないかと私も心配していました。

 確かに、ミャンマーには世界中からビジネスマンが調査に押し寄せており、訪問した日本大使館もJETROも千客万来と述べていました。しかし、話を聞いてみると製造業が進出するにはまだ制約が多すぎます。まず、電力の不足が決定的な制約条件になります。インフラの整った工業団地には空きがありません。そして、物流網が未整備です。自家発電で電力が賄える縫製、製靴等の軽工業は、中国での生産がコスト的に限界に来ている場合は進出のメリットは見出せますが、電力を必要とする製造業はまだまだ進出不可と感じました。

 続いて訪問したバングラデシュも状況は同じです。電力が決定的に不足しています。

 そして、両国に共通していることは発展途上国特有の法整備の不備が見られることです。事業運営上、中国とは違ったカントリーリスクが存在しています。中小企業が進出する場合には現地に精通したパートナーが不可欠と感じました。ミャンマーもバングラデシュもいずれ賃金は上がります。賃金の低い国を求めて移動するというビジネスモデルをもつ労働集約型産業でなければ、広くASEAN諸国を眺めて企業立地を定めた方がよいと感じました。これは、バングラデシュからタイ・バンコクへ移動し、最近のタイの状況を把握し、ASEAN諸国全体の話を聞いてその意を強くしました。まさに「百聞は一見にしかず」でした。

先入観を持ちすぎないこと

 ミャンマーもバングラデシュもASEAN諸国の中では最貧国に数えられる国です。私は恥ずかしいことですが、何となく文化レベルの低い国というイメージをもっていました。 しかし、実際に訪問して現地の方々と話をすると、ミャンマーがビルマといっていた古い時代にはタイのアユタヤ王朝に連戦連勝で、この王朝を滅亡に導いた歴史があり、愛国心の強い誇り高い民族です。国民も大多数が敬虔な仏教徒でとても親日的です。長く続いた経済制裁もあって国は貧しいですが、識字率も90%近くあり、これから発展しようという気概に満ちていました。

 バングラデシュは日本の約40%の国土に1億4千万人が住む、とても人口密度の高い国なので首都ダッカは人で溢れています。街もゴチャゴチャしていますが、皆明るくて、とても親日的です。広島との交流も深く、原爆の日には平和の願いを込めたメモリアルサービスをやってくれています。佐渡島大使に伺ったところでは、とても芸術が盛んな国で、日本に勉強に行く画家も多いとのことでした。また、俳句作家も50名ほどいて、日本の心を伝えるいい句を詠んでいるそうです。

 中国でも感じたのですが、外国を旅するとき先入観を強く持っていると、その国は先入観どおりのものを見せてくれます。見せてくれるというより、そのように見てしまうのでしょう。私は上海に10年住んで各地を旅しましたが、いつも自分は中国のすべてを知っているわけではないと自覚するようにしていました。いろいろな人が旅の印象を記していますが、「私が見たのも中国、あなたが見たのも中国」というわけで、見る角度によって印象はがらりと変わります。皆様も外国を旅するときは「これもこの国、あれもこの国」と、いろいろな角度からその国を見ると見聞が広まると思います。

福喜多 俊夫

福喜多 俊夫

順利包装集団(総公司:香港)総裁
(上海在住)

専門分野

海外子会社管理(経営管理・工場経営・品質保証)、目標管理、包装・物流情報

カネカ勤務中は米国、ベルギー、東南アジア(シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、フィリピン、中国、香港)の子会社管理、工場指導を担当し、関連子会社に10年ほど出向していたこともあるので、中小企業、特に海外の中小工場経営が得意。

【資格】
◇技術士(経営工学部門)
◇APECエンジニア(工学部門)

【参加団体】
◇大阪能率協会
◇技術士包装物流会
◇(財)海外職業訓練協会(OVTA) 国際アドバイザー

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