上海知恵企業管理諮詢有限公司 高級顧問
アジア移転価格専門コンサルティング 代表
小川 孝一
前回②に続いて「移転価格」のお話しです;
移転価格は、所得(=利益)の移転防止目的という税の仕組みを有しながら、「芸術」の偉名を冠している税制です。そこでの移転する「価格」(=所得)とは、「独立企業間価格」(=ALP)というゾーン内での比較と検証のベンチマークが求められます。
その「価格」の在り方では税務調査時でのバトル・ヒルな更正合戦です。
その国は・有史より隣国です。
少子高齢化へ沈みゆく日本と更なる発展期待する中国。
現今、ビジネス・レーダーは当然に企業が向かうべき経営をホットに誘導させています。然して、そこでの価格設定の問題は常に市場要因、外部環境要因、企業戦略等々の「標準化の要因」(=ハーモナイズ化)と、「現地最適化の要因」(=カスタマイズ化)という圧力せめぎ合いの中で「価格」(=グローバル・プライシング)が決定されていきます。それ故、移転価格は進出企業から見れば製品或いは部品等の現地国への輸出価格(=輸出原価)と言えます。
一般的には、進出国での利益最大化よりも法人税の低い国で利益を高くして、その分、法人税の高い国では輸出原価を低くし法人税の高い国での利益を抑える経営選択がなされます。進出企業と現地税務局とのコンフリクト、即ち移転価格での課税問題となります。
そこでは、企業が完全に利益拡大の方向に動く誘因は高関税率と高法人税率の場合に顕著に特徴です。高関税率では、支払関税を最小にすべく移転価格を低くしようと動き、高法人税率では移転価格を高く設定しようと利益圧縮する誘因として現われます。価格設定に関する方向性はまさに「相殺」する方向へ動いていくのです。

その価格では、企業は通関時に係る関税支払いを低く抑えるため、関税率が高ければ高いほど移転価格は低く設定させる傾向を有します。然るに、ビジネス進出する企業における利益と費用は国ごとに適用される輸入関税率に左右となるのです。
経営意志決定では、その「価格」は下限価格(price floor)、上限価格(price ceiling)、最適価格(optimum price)などがファンダメンタルです。下限価格は生産コスト等により決定され、上限価格は現地における同等製品の競争価格と消費者支払能力等により決定されていきます。そして中間にある最適価格それを決定していくことになります。
現今、グローバル化の進歩は市場を単一から複数同時考慮に変化させ、企業のグループ全体に係る価格(=関連者間取引価格)の「利益最大化」を目指させます。しかもその最適価格は下限上限間で大きく変動するところとなり、時に進出国では、国内価格を大きく上回る価格即ち「国際価格エスカレーション」ともなっています。
それ故、その目指すべき利益最大化における「価格」(=関連者間取引価格)は、移転価格での価格設定の課税の問題として税務権限局の格好の標的となっていきます。
いま、中国の移転価格税制ではその価格設定に係る「関連取引」を文書義務化です。
- 関連取引の類型、関与者、時期、金額、決済通貨、取引条件等
- 関連取引に採用された貿易方式、年度変化状況及びその理由
- 関連取引の業務プロセス
- 関連取引に関わる無形資産及びそれが価格決定に与える影響
- 関連取引の関連契約書又は協議書の副本及び履行状況についての説明
- 関連取引の価格決定に影響を与える主な経済及び法律の要因に対する分析
- 関連取引と非関連取引の収入、原価、費用及び利益の区分状況
思料するに、これら諸項目はまさに「ソリル&ベッカー(Pricing: An International Marketing Challenge, 1980)」の説いた「国際的な価格設定のための決定要因」、その項目改訂がされた事項と類推されます。また後において、OECD租税委員会策定(1995)による「納税者と税務当局との双方に向けられた移転価格税制に関する国際的なガイドライン/多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に係る指針」(Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations) にも適用連なると思われます。
このOECDガイドラインは各税務権限局に対し強制適用ではありません。
しかし、移転価格の算定が独立企業原則に従ったものであるか否か、税務上評価する際に本ガイドラインは準拠奨励です。
いま日本と中国は共に遵守国です。
(続く)
日本および中国にて、一貫して税務・会計畑を歩んできている。
特に、国際税務に関わる移転価格税制に精通。
移転価格税に関わる対策文書/同時文書の作成、税務調査を中心として事例研究多数あり、関連セミナー講師多数。