2013年07月08日(月)

短い旅の税リスク

上海知恵企業管理諮詢有限公司 高級顧問
アジア移転価格専門コンサルティング 代表
 小川 孝一

前回の「長い旅の税リスク」に続く、今回は「短い旅」のケースです。日本に居住する人が短期間を国外で働く場合・その税金はどうなるのでしょうか。

一般的では、国外勤務期間も継続して日本の居住者としての扱いに変わりは有りません。 然し国外勤務に対応する部分では、その給与は国外源泉所得 に該当していきます。 非居住者での場合、国内源泉所得は居住地国の外その所得の源泉地国にも課税権が在ると解されており、例えば中国勤務期間に対応する部分の給与についても中国国内法に従い課税されることになり、その従業員は中国で個人所得税の申告納税義務が生じるところとなります。

然し、都合良いことには、日中租税条約において短期滞在者免税の規定が設けられており、一定の条件のもとでこのような所得については免税とされます。その条件は日中租税条約第15条②において次のように記載されています。

  • 報酬の受領者が当該年を通じて合計183日を超えない期間当該他方の締結国内に滞在すること
  • 報酬が当該他方の締結国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われる者であること
  • 報酬が雇用者の当該他方の締結国内に有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものでないことです。

但し、中国においては、外国籍個人所得税に係る記録資料 に対して管理強化を行っていますので注意です。

そこには、外国籍人が就業する企業に対して、人数の多少、長期滞在か短期滞在かを問わず全ての企業ごとに外国籍人の姓名、国籍、職務、在任期間等の情報を含んだ管理台帳の整備が求められています。更に、その勤怠管理についても次を記録です。

そして、もしも中国滞在の期間において、中国現地子会社が給与等に係る費用を負担すると租税条約上の短期滞在者免税の適用と、或は現地子会社が当該費用を給与等として負担となった場合、それはともに短期滞在者免税が適用出来なくなります。

この考え方は、実質雇用者の概念(Economic Employer Concept)を反映 したものと考えられます。OECDモデル条約 コメンタリーでは、次の項目を実質的雇用者の判定基準として挙げています。・雇用主の従業員の労働により生じた結果に対する責任の有無、・従業員に対する指示に関する権限の所在、・その労働に対する監督と権限の所在、・従業員の給与に係るコスト負担、・業務遂行に必要な機器(PC)や機材(書籍)の所在、・派遣される従業員の決定方法等です。

また、中国の現地子会社に技術指導を行う場合であっても、現地子会社がその費用を給与等として負担すると、短期滞在者免税が適用されず、非居住者として中国における役務提供部分に課税されるところとなります。このような実質雇用者の考え方は、イギリス、オランダ、オーストラリア、カナダ、ドイツ等も採用しており、出張先国の採用の有無などの事前の確認が大切です。

上述した国々と同様にそれぞれの国内法において短期間の滞在に係る免税規定を有するアジア圏では表のとおりです。

短期間での出張について出張先国での課税の場合、帰国後の確定申告において外国税額控除を行い二重課税リスクの調整で還付申告を行います。

そして、この「短い時間」と競り合う ≪重要な問題≫ が存在してきます。それは「PEの課税問題」です。

その法律、≪国家税務総局:非居住者企業の派遣人員による中国国内における役務提供で徴収する企業所得税に関する公告、総局公告2013年第19号≫は、今後に注意を要する存在となりました。

2010年発布から経過三年にして、それは大暴風雨です。ご注意ください。

小川 孝一

小川 孝一

上海知恵企業管理諮詢有限公司 高級顧問
アジア移転価格専門コンサルティング 代表
(上海在住)

専門分野

会計・税務管理、移転価格税、中国税務&国際税務、内部統制構築

日本および中国にて、一貫して税務・会計畑を歩んできている。
移転価格税に関わる対策文書/同時文書の作成、税務調査を中心として事例研究多数あり、関連セミナー講師多数。

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