佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸
一昨年から昨年にかけて、日系企業に労働争議が多発しました。何故争議が、しかも日系企業に多発したのでしょうか?今年はそうならないようにしたいものです。
争議多発事情
過去にも労働争議は多数発生していますが、最近多発した争議はやや事情が異なり、単純な低賃金に対する抵抗ではないようです。主な変化内容は下記でしょう。
- 労働契約法制定による労働者権利意識の向上
- 西部開発による出稼ぎ労働者不足と地方の物価上昇
- 所得倍増政策に後押しされた最低賃金の大幅引き上げ
- 都市の物価上昇による故郷への送金不足
- 故郷も物価上昇し送金価値の目減り
争議が起こり易い日系企業事情
問題は、日系企業に多発したことです。事情は色々ありますが、簡単に言えば下記だということは各方面で言われており、ご承知でしょう。日系企業は争議が起こり易く、かつその成果を出しやすいからです。労働者にとってリスクのある争議は、成果が見込めなければやりません。
- 現地経営者に当事者能力が無く、労働者から尊敬されていない
- 公平・透明な人事・賃金制度が無く、不満が出やすい
- 同上理由により、横並び賃金により、労働者が団結しやすい
- 幹部教育をしていなく幹部の意識が低いため、労働者の不満を吸収していない
- 真の人事部長を育てていない
- 労使関係を構築していなく、工会を通じた労使交渉にならない
- 交渉能力が無く、何でも親会社に問い合わせ、小出し回答になる
- 毅然たる態度でゼロ回答をしないため、争議の成果を出しやすい
今後見込まれる賃上げ以外の労務費の高騰
労務費は、賃金だけではありません。過去に曖昧な運用または地域によって差があったものが統一されることにより労務費が上昇しそうなものがあり、争議の基になりそうです。
詳しい内容は別途報告しますが、年次有給休暇の強制と勤続年数に関する解釈の相違、年休取得残日数の3倍買い取り条項の運用方法が第一に大きな問題です。
法定最低賃金に関しても、社会保険などの控除をした後の賃金すなわち、手取りでなければならないという条例の解釈も地域によって異なります。
残業手当についても、管理職や外勤営業などは、不定時労働制により支給対象外ということは通じない地域が増えてきました。残業手当計算基礎賃金も地域によって不統一ですが、いずれ統一されるでしょう。
その他にも、食事や住宅等現物給付福利の所得課税対象化、外省人や外国人を社会保険対象者とする動き、定年を65歳へ延長させる動き等など、毎年増えてきています。
争議のネタは何処にでも転がっていますよ。
今年こそ労使関係の構築を
日系企業は、人事・労務を軽視していると思われています。そこから脱皮する第一歩が労使関係の構築です。それとともに、労働争議が起こり易い企業体質からの脱皮は容易です。
当然ながら、工会などの労働者代表組織を作る必要があります。元々この組織は法律で義務付けられています。したがってどの会社も何らかの労働者組織がありますが、労働条件や就業規則改定時の説明機関にのみとなっています。
本来の労働者団体、労働者が困ったときの相談相手にはなっていないし、頼りにもされていません。労働条件の交渉機関にもなっていません。
だから、ストライキの一つもうちたくなります。
工会などの労働団体は、極めて会社よりの姿勢が工会法で規定されており、ストライキなどの争議も抑制する側に回ることも規定されています。また、賃金集団交渉条令により、会社側もよほどのことが無い限り、交渉拒否不可となっています。
しかし、中国は「労使関係」という概念が薄いことに問題があります。したがって、指導援助機関はありません。地方総工会や労働局も、従来は、工会組織率を高めることのみに専念し、工会主席(委員長)にしても人事部長や工場長など、労使協議の場で会社側の席に座る者が、就くことを容認していたほどです。これでは、労使協議にならないばかりか、労働者が頼りにする組織とはいえません。
労働者代表から会社側の者を外し、労働者の中から民主的に選び、労使間協議・交渉を定例化し、集団契約(労働協約)を結び、労働者が頼れる相談できる労働者代表組織に育てることが経営者の力となります。
繰り返しますが、これを指導してくれる上部団体は、今の中国にはないと思ってください。
電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。