2011年07月08日(金)

中国でも日本でも労働法違反!

佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸

今号の、福岡氏のコラムで分かることは日本でも、労働基準法違反が60%以上もあるということで、世界に冠たる法治国家としては驚くべく数字です。

その内容をおさらいすると下記です。

①労働時間〈違反率27.5%〉
  • 残業をさせる手続きをしていない)
  • 手続きはしているが、協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせている。
②割増賃金(違反率21.5%)
  • 時間外労働を行わせているのに、法定割増賃金を支払っていない。
③就業規則(違反率17.3%)
  • 常時10人以上の労働者を使用しているにも係わらず、就業規則を作成・届出していない。
④労働条件(違反率15.4%)・・・中国では労働契約違反
  • 労働者を雇い入れる際に、賃金額や支払方法等法定事項について書面を交付していない、または交付しているが法定事項が不足している。

中国の日系企業と同じ

中国にある日系企業の実態を見ていると、まさに同じ状況です。

日本でもこうなのだから、後進国の中国で経営するのに、そんなものに構っていられないよ。ということでしょうか?実際は、中国人の人事責任者に任せきりにし、法律違反をしていることすら知らなかった。あるいは、違法行為の重大性について認識不足というのが実態でしょうね。

中国では、上記の他に最低賃金違反、社会保険料違反、入社時の説明義務違反、労働諸規定の整備違反など多数見受けます。

労務人事に無関心

日系企業の経営者(総経理)の多くは、労務・人事に無関心です(でした)。

日本では管理職であり、経営全般を見る経営者ではありません。それも、人事総務や財務などの管理部門ではなく、営業や製造などの現業部門すなわち、最前線で活躍していた方です。日本では、人事関係、財務関係は、その専門部門でしっかりとやってくれているので無関心でもよかったからでしょう。

また、過去はそれでも経営できる環境がありました。
したがって、その専門家として中国人の人事部長を採用し任せていました。

人事部長に真の専門家は少ない

中国には、日本の労働基準法に相当する「労働法」があり、それを強化補足するものとして「労働契約法」があります。労働法は20年近く前に施行されていますが、抜け穴も多いことから遵守している企業は少なかったのが実態です。

2008年に施行された労働契約法により、罰則も強化され抜け穴も少なくなってきて労働関係法に関心がもたれるようになりました。さらに後記の経営事情の変化があり、やっと経営者の人事に関する要求が変わりました。したがって、2008年以前に人事部課長になった方は、専門家とは言えない方が多いようです。

変わった経営者が求める人事部長像

過去の経営者が求めた人事部長像は、極端に言うと法律の抜け穴を探し、または見つからないようにして、「如何に労務費を節約するか」、「安い労働者を如何に多数集めるか」であり、それが評価ポイントでした。人事部長は、それに応えるべく、労働局と仲良くなり経営者の要求に応えてきました。法律順守の姿勢などはありません。それが経営者の求めるものだったからです。

2008年以降、その環境はがらりと変わりました。

一つは労働契約法の施行。もう一つは経営環境の激変です。安くて豊富な労働力の元に、中国で加工して輸出するという経営が難しくなってきたということです。

「安くて豊富な労働力」、「加工して輸出」その基本が二つとも崩れました。その詳細は各種記事に載っているので省きますが、現状は現地販売、現地調達を迫られ、そのために管理人員および技術者ならびに生産技術者などの人材要求が急激に高まってきました。そうは言われても、そのような人材は奪い合いであり採れません。

そこで、それらの人材を養成し、確保するのが優秀な人事部長となりました。そのためには、人事・賃金体系を整備し優秀な者を残しやすくし、教育制度で養成するようになってきました。労使関係も重要課題となりました。会社として法律違反をするようなところには、優秀な者は入らないし育たないのは言うまでもないことです。

人事部長を育てるのは経営者の役割

では、そのような人事部長を採用しようと思ってもいませんし、いても奪い合いです。したがって、経営者が人事に強い関心を持ち、内部で育てるしか方法はありません。

これらのことは昨年の8月と9月に書きましたので詳細は省きますが、「会社が求める人事部長像はこのように変わったのだ」ということを、人事担当者に教え理解させることが、直ちに行うべきことです。

佐藤 忠幸

佐藤 忠幸

佐藤中国経営研究所 代表 (上海在住)

専門分野

企業管理・人事労務・労使関係・品質管理・幹部・5S研修・社内規定

電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。

※当ページの内容は公開当時の情報であり、最新情報と異なる場合があります。予めご了承の上お読みいただけます様お願い致します。

▲ページの先頭へ