佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸
拡大する一方の中国市場を求めて、多くの日系企業が中国に進出しています。しかも、大手企業は、部材調達の現地化を急激に進めており、ますます市場が大きくなり、チャンス到来です。
しかし、顧客の要求は、「日本並の品質」で「中国並の価格」という厳しいもので、従来の中国方式では全く通じません。そこで、見直されているのが5S運動です。5S運動により企業体質と社員の意識改革をしようというものです。
顧客が行なっている高付加価値の業務を請け負うためには当然であり、JIT(just in time:ジャスト イン タイム)や、その他の管理システムを導入する場合には、どうしても担当する人の質の問題があります。中国においてはそれが強く感じます。その対策として「5S運動」が見直されています。今号からそれを学びます。
5S運動とは
5S運動とは、次の5つの日本語をローマ字表示した頭文字を集めたものです。
- 整理:Seiri
- 整頓:Seiton
- 清掃:Seisou
- 清潔:Seiketsu
- 躾(しつけ):Sitsuke
日本では、当然のこととして各企業で実施されており、空気のような存在です。多くの企業は1960年台~1970年代に先輩方が苦労されて導入し、定着化しました。現在在籍して社員は、それがやられていることが当然な状態として入社した方が大部分です。
当初(1950年代)は、作業空間を広げるために整理・整頓の2Sからスタートしました。その後、仕事の能率や品質の向上、さらには経営効率の向上を図るため順次Sが追加され、今の5S運動に進化しました。
1970年代には、トヨタや松下電産など先達的企業が、5S運動を基礎としてJITその他様々な生産管理システムを導入し、源流管理やZD(不良撲滅)運動など様々な品質向上運動を展開し、原価削減と品質向上の両方を果たし、ブランドイメージも確立し、日本の経済発展を実現しました。このことは、世界に驚きをもって向かえ入れられ、5S運動は世界共通語となっています。
その後、サービス、セキュリティ、セーフティ、シンプルなどの英語の様々な「S」を加えて独自の活動をしている企業も見受けられますが、マンネリ化を防ぐための目新しさのみであり、企業活動の基本的事項の全てが5Sに入っているといってよいでしょう。
5S運動の狙いの効果
5S運動は、単に綺麗にしたり片付けたりすることとの既成概念をもっている方を見受けますが、実際は下記の効果を狙って活動します。
- 企業のイメージ改善と向上
- 業務効率の向上
- 部品・製品の在庫回転率の改善
- 不良品の減少・除去、品質保証
- 労働安全の保証
- 生産コスト削減
- 作業LT(周期)短縮、納期確保
- 社員の意識改革
- 組織活力化
- 以上の結果、財務を含めた企業体質の改善
中国で今更必要なの
「今更、5S運動なんて古いよ」「当社は既にISO9000や14000シリーズの認証を受けており心配ないよ」
という声を度々聞きます。ISOの認証を受けている会社でも、日系大手企業と取引をするための取引認定を申請し審査を受けたところ否認された例はたくさんあります。ISOの基本的精神を把握していない、あるいは、実行していない。形式のみ追従しているだけということから否認されているようです。
5S運動は、スタートは古いものですが、内容は年々進化し、しかも、実行すればするほど奥の深い新しい運動であることが分かります。
また、「日本のように労務費の高い国であるから意味があり、中国では意味が無いよ」とも聞きます。
しかし、中国の日系企業の競争相手の多くは、日本の企業ではありません。欧米系その他の外資系企業が競争相手であり、最近では外資系企業に鍛えられた中国系企業が競争相手です。中国系企業独特の合理的精神と外国投資者のいない強み(費用と決断力)で急速に力をつけています。高度な管理力と品質保証が日系企業の強みであるはずです。
ISOその他管理手法全て、実行の基本が「人」であり、その行動を変えるのが5S運動であると認識してください。
躾のない中国では無理だよ?
「中国人は、一般的に自己主義であり全員での運動は難しいよ」あるいは、「躾が出来てない人が多いので無理だよ」との声もよく聞きます。
だから5S運動が必要なのです。
また、企業は個人商店ではありません。個人商店の集まりでも経営できない、そして組織活動なくして企業が成り立たないことはお分かりだと思います。
詳しくは次号で。
電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。