佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸
日系企業を訪問すると、2S点検とか3S学習会などの表示をよく見ます。総経理に「何故5Sではなく、2Sや3Sですか?」と伺うと「最初から5Sは無理だよ」とのお答です。しかし、10年経っても一向に改善されませんがどうしてでしょうか?
整理・整頓・清掃を3Sという
5S運動とは、何回も学んでいますが、次の5つの日本語をローマ字表示した頭文字を集めたものです。
整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketsu)、躾(しつけ:Sitsuke)
その内、整理と整頓を2Sと言い、当初(1950年代)の日本はこれを行うことから始まりました。それだけでは不十分だということで、清掃も加わり3S運動となりました。ついで、清潔と躾(しつけ)が加わり5S運動となった歴史があります。
清潔は、当初は文字通り清潔な身体と服装で仕事に取り掛かろうということでしたが、そんなことは当然ですので、整理・整頓・清掃の3Sをきっちり行うための習慣化と仕組み・ルールを作り守ることと変わって4Sとなりました。しかし、「しつけ」がしっかりと出来ていなければ4Sはまともに出来ないということで「しつけ」が加わり今の形となったわけです。
すなわち、昔の日本は「しつけ」がしっかりなされており、その「しつけ」を土台として2Sや3Sがスタートしたわけです。
2Sや3S運動は中国では成果なし
中国では、まず「しつけ」から徹底する必要があることは以前学びました。中国は、「しつけ」という概念や習慣が希薄ですし、学校や家庭で教えないからです。街角や地下鉄などで見られるマナーの悪さを会社内で行われ、それを「中国では仕方ないと諦めたら」その会社の将来はありません。
「しつけ」をないがしろにしたまま、整理・整頓あるいは清掃を徹底しようとしても、表面的な活動に終わります。注意された時にだけするだけです。ひどい場合はやった「ふり」をするだけでしょう。
如何に、ルールを作り教え込んでも行動するのは「人」です。その(心の)姿勢がしっかりとしていなければ、ルールなどは形だけとなります。上司が見ていなければ守りません。ひどい会社はその上司自身が守りません。交通マナーの悪いのが警察であることと同じです。
したがって、「しつけ」や清潔を後回しにしたのでは、永久に2Sや3Sは改善されません。
全ての基本は「しつけ」
社員の行動を、24時間365日360度監視することは不可能です。
2007年に起きた毒入り餃子事件でもお分かりでしょう。多数の監視カメラで監視しながらも毒を注入されてしまいました。人の行動は機械や他人の監視や指導だけで100%縛ることは不可能です。ある程度は性善説で管理するしかありません。
それが躾(しつけ)です。人間としてあるべき行動を自らしようという習慣を付ける教育が必要なわけです。「そんなことは分かっているが中国では無理だよ」とのお言葉もよく聞きますがそれを総経理さんが出来ない場合は外部の専門家に依頼してでも行うべきです。それが出来ない会社は終わりですから。
しつけ向上に罰金制度は逆効果
しつけを向上させるためには、罰金制度の導入が必要だとの声も聞きますがそれは逆効果です。罰金を取るということは、このような時は罰金を取るというルールと、監視行為が必要となります。
元々「やってはいけない」というルールがありながら、守られないからといって、その上に「ルールを犯したら罰金を取る」というルールにしたら本当に守られるのでしょうか?
中国の高速道路を見てください。ルール違反していない自動車は極めて少ないですね。
スピード制限、追い越し制限、車間距離、走行車線規制など違反すれば罰金を取られますが誰も守りません。結果は事故の多発ですね。守らない理由は「見つからなければ平気」だからです。そのため、監視カメラなどで監視が厳しい所に近づくと急にスピードを落します。
会社内でも同じことです。
社員の行為を四六時中監視し、ルール違反行為に罰金を取るなどは不可能です。品質管理でも同じで、検査に頼りきりではお客様の信頼は勝ち取れません。
管理者が見ていない時でも、正しい行為をさせ、正しい作業をさせるには日常の「しつけ教育」が肝要です。
中国では5S同時スタート
「しつけ教育」だけをしても、教育を受ける立場にたてばこんなつまらないことはありません。したがって、5Sを同時スタートさせ、色々な教育の中に「しつけ教育」を織り込みます。
その方法は?簡単ではありません。会社の状態により全てが変わります。具体的な推進方法は個別に学びましょう。
電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。