2014年07月31日(木)

健全なる労使関係は貴方が構築を

佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸

 日中関係が微妙な時期ですね。

 こういう時期は何かの不満があった場合それを材料にして労働争議が起きやすいものです。先月、広東省で某日本親会社トップが中国現地法人の幹部会で日中戦争にかかわる私見を述べたところ、愛国教育で固まっている出席者の一人が疑問を周囲に話し、これをきっかけに労働争議になってしまいました。

 業務は数日間も止まったままでした。 おまけに季節外れの賃上げまでさせられてしまったようです。本当は、広東省の工場は他の地域に比べ賃金が高すぎるので下げたかったのですが、先手を打たれ賃上げに追込まれてしまったそうです。公私を忘れ、中国の公式の場で中国政府の公式見解(学校教育)に逆らうような発言をしたのでは火もつくでしょう。いくら自分が出資した会社でも、会社の幹部会は公式の場面です。

 数年前にも書きましたが、「社員は人間である、さらに社員は仲間である」として、日常的に接している企業には労働争議も企業攻撃も無いでしょう。しかし、現地法人の社長(総経理)の知らない間に親会社の失態で争議が起こることもあるという事例です。

争議が起こり易い日系企業事情

 日系企業は争議が起こり易く、かつその成果を出しやすいという下記の特徴を持っています。労働者にとってリスクのある争議は、成果が見込めなければやりませんが、日系企業は成果が期待できると思われています。

  1. 現地経営者に当事者能力が無く、何でも親会社に問い合わせる
  2. しかし、親会社は中国事情に疎い・・・しかし現地に任せない
  3. 経営者の経営能力が低く、労働者から尊敬されていない
  4. 公平・透明な人事・賃金制度が無く、不満が出やすい
  5. 年功序列型賃金制度により、横並び賃金となり労働者が団結しやすい
  6. 幹部教育不足により幹部の意識が低いため、労働者の不満を吸収していない
  7. 真の人事部長を育てていない
  8. 労使関係を構築していなく、工会を通じた労使交渉にならない
  9. 交渉能力が無く、小出し回答になる
  10. 毅然たる態度でゼロ回答をしないため、争議の成果を出しやすい

中国人幹部は労使関係を知らない

 現地法人の副社長(副総経理)や人事部長、工場長など中国人幹部の頭に「労使関係」という感覚は入っていない方が大部分です。「労使」という概念もありません。労使という概念は中国の「工会法」(工会とは日本の労働組合に似た労働団体のこと)に明確に、詳細に書かれていますが、読もうともしません。したがって、彼らの考えで現地法人の労使関係を放置している会社は労働争議になる可能性が極めて高いものがあります。

 試しに彼らに「労使協議や労使交渉は誰がどうやってやるの?」と聞いてみてください。答えられる方はほとんどいません。労使間の協議や交渉の必要性も感覚も無いからです。たまにある答えは「わが社は労使円満ですので協議の必要性はありません」とのことです。中国労働契約法や工会法には、賃金改定など労働条件の改定や就業規則の改定などは、全社員または工会など社員代表者組織と協議し理解を求めることが義務付けられています。「協議や交渉がない」という企業は文書のやり取りだけ(形式を整えただけ)でコミュニケーションは無いのでしょうか?

 工会など社員代表者組織のもう一つの役割(こちらの方が重要だが)は、職場の不満や問題を吸収し会社との協議で解消することですが、その役割も果たしていません。

機能を果していない社員代表者組織

 企業に対する不満を解消するため、反日行動の名を借りた争議をされることだけは絶対に避けなければならないし、企業努力で避けることもできます。労働争議を起こされる企業の多くは、工会など社員代表者組織が無いか、あっても、地方政府や地域労働団体などの外部から作れと言われて「仕方なく」作ったもので社員代表者組織として機能していません。

 仕方なく作った企業の工会など社員代表者組織幹部の多くは、人事部長や工場長などの会社幹部が就任しています。そのような企業は、労使協議や団体交渉の時に、会社側、労働者側の席のどちらに誰が座ってよいのか分りません。労使という感覚も労使協議という感覚もないのですから、工会など社員代表者組織は機能していません。

 工会など社員代表者組織がその機能を果さず、しかも労働者代表が会社幹部との兼任の場合、職場に不満が生じた場合、社員はそれを何処にぶつけ、相談するのでしょうか?

 外部機関に訴えるか、勝手にストライキや破壊行為などの労働争議に走るしか方法が無いという、極めて危険な状態です。

平時の労使関係の構築が重要

 そうならないためには、工会あるいは社員代表者組織とのよい関係を、如何に維持向上を図るか、いわゆる労使関係に関心を持たなければなりません。

 特に、経営者はそれに関心を持たなければなりません。

 中国における労働運動、労使関係の歴史は極めて浅いものです。中国は、元々労農国家であり労働者は保護すべき対象ではありませんでした。それを保護すべき対象に変えたのが、2008年より施行された労働契約法です。したがって、労働運動を指導し、労使関係を構築するにはその歴史を持っている日本人経営者が指導しなければなりません。

 幹部をあてにしてはいけません。労働争議を起こされて困るのは彼らではありません。あなたです。

佐藤 忠幸

佐藤 忠幸

佐藤中国経営研究所 代表 (上海在住)

専門分野

企業管理・人事労務・労使関係・品質管理・幹部・5S研修・社内規定

電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。

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