佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸
中国の労使関係は未成熟であり、工会は作るだけでは意味が無く育てなければなりません。しかし、工会を会社側の人間が育てるとはどういうことでしょうか。
そもそも工会とは何でしょうか。前号では「工会とは、日本の労働組合に似た労働団体のこと」とし、労働組合とはしませんでしたが、労働組合とは何が違うのでしょうか?
労働者とは
そもそも、労働者とは何でしょうか?
あなたは労働者ですか?
使用者ですか?
給与をもらって働いているのだから労働者かな?しかし、沢山の部下を使っているのだから使用者かな?会社に出資しているのだから資本家だろう。などと自分の立場が分からない方が多いようです。
中国の法律による定義では明確です。
皆さんは、労働契約書を取り交して働いているはずです。労働契約書で労働者側に名前が記載され、それに署名したのであれば、あなたは労働者です。
たとえ社長(総経理)でも高級幹部でも同じです。日本人であれば、就労ビザで働いている方が大部分ですがその場合は必ず労働契約書に署名しているはずです。それ以外で就労する場合はご自分が出資者になる場合が大部分です。出資者であれば労働者ではなくなり就労ビザも変るし、ビザ取得の年齢制限もありません。
労資とは、労使とは
労資とは、労働者対資本家(出資者)の関係を表します。
この関係は企業内においてはあまり考える必要はありません。出資者の多くは経営者を選びその者に経営を委嘱しているため、労資協議の場面はありません。
労使とは、労働者対使用者の関係を表します。
使用者には資本家(出資者)も含みます。
したがって、使用者とは、資本家と労働者の中から選ばれた経営者や管理者で、労使協議場面の出席者構成をします。どの立場を使用者とするかは、労使協議して労働協約書(中国では集団契約書)で決めます。
一般的には、社長(総経理)、副社長(副総経理)、工場長など経営者と言える立場の人は使用者です。その他には、人事、財務など労使関係における会社側の機密事項を守る立場の管理者は使用者とします。
ただし、使用者という立場にはなっても、労働者の立場であることも変わりはなく、労働者としての権利は主張できるしそれは擁護されます。しかし、使用者側となったら労働者の代表にはなれないということです。
工会と労働組合の違いは
労働組合とは、労働者一人一人では経営者に対して弱い、したがって労働者が手を繋ぎ団結し対抗する団体のことです。
そして先進国では、次の全てが法的にも実態としても保障されています。
- 結社の自由
- 団結の自由
- 思想信条の自由
- 権力からの独立
- 支配からの独立
ご承知のように、中国の工会は、これとは異なり制限付き、条件付きの保障であることから先進国では労働組合としては認められません。例えば、活動範囲は経済的要求に限られ、活動費の大半は企業負担とし、専従役員給与も企業負担としています。
しかし、社員代表者組織として割り切り、労使協議の相手として育てれば問題ありません。もちろん、社員、労働者の悩みや不満を吸収し改善活動をする団体でなければ代表者とは言えず、機能しないことは当然です。
社員(労働者)の代表組織を育てて、外部(訴訟)や力(争議)に頼らない労使関係を作るのはあなたですよ。少なくともあなたがそれを意識しなければ誰も育ててくれません。
電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。