2016年01月21日(木)

中国企業の会計は特殊ではない①

佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸

「中国での企業経営は難しいですよ。特に会計は分からないことばかりで困ります」とお嘆きの日本人社長(中国では総経理という)をよく見かけますが難しいことは何処でも同じです。そして中国の会計は本当に特殊でしょうか?

そもそも、その社長さんは本来あるべき姿の財務や会計はご存知なのでしょうか?sそれでも、社長は毎日の様に各種決裁印を押し小切手や出金伝票にサインをしていますが、そのサインに躰を張って責任を負えるのでしょうか?

中国の会計は特殊ではない

会計には、財務会計・管理会計・税務会計の三種があることは御承知でしょうが、これは中国でも同じです。概略次の如くであり、何ら特殊な内容はありません

財務会計は、経営のためおよび株主のための会計で、決算書などの財務諸表はこれを基に作られています。財務諸表を見て誰でも共通の判断を得られる様に、その基準や方法は「会計法(中国では会計準則という)」で決められています。中国の会計法はほぼ国際会計基準にほぼ沿っている分かりやすいものです。

管理会計は、経営計画や投資計画・原価計算など社内の経営資料に使うもので、自社で基準を決めればよいことです。したがって、日系企業の多くは親会社が決めた基準を持ち込んできていますが、それで何ら問題はありません。

税務会計は、いくら税金を払うかというためのもので、「税法」に基づいて行います。

多くの会計師は、経営の為の決算をするのではなく、税務局に叱られないためだけの税務会計をしているため、分かり難くみえます。

企業の会計は会計法に則った、経営者および株主に分かりやすい財務会計をさせるべきです。正しく分り易い数字を基に、正しい経営判断をしてください。

会計法に基づく財務会計は世界最先端

前記の如く、財務会計は会計法に基づいて行われます。

中国の会計法は正式には「企業会計準則」と云い、1993年に施行しました。しかし、当時は未だ各種細則の整備が不十分であり実際に運用開始したのは2001年からという大変新しい法律です。どうしてそんなに新しいの?

思い起こしてください。一昔前の中国には民間企業がありませんでした。だから、株主向けの決算書など不要であり、如何に公平に税金を徴収するかという法律しかありませんでした。市場経済を開始し多数の企業を民営化し、しかもWTO加盟を目指した中国は「国際会計基準」という世界共通ルールに基づいた会計法を必要とし「企業会計準則」が出来上がったわけです。

日本など先進国の会計法は、1960年代80年代に作られたものであり、中国のそれに比べたら随分古いものばかりです。もちろん各国共に、何回も改正を続けていますが、永年旧法で運用されていることから各種の企業管理や習慣が生まれ、既得権益が数多く生まれていますので全ての改正は至難の業です。

その点、中国の会計法(企業会計準則)は、全く新規に作るものですから先進国のそれをすべて学び、世界で最も先進的なものを作ることが出来たわけです。企業会計準則は、その後も改訂版が次々に出され常に先進的なものを維持してきています。

したがって、会計準則に則った中国企業の財務諸表は、日本人が見ても誰が見ても(基礎的な会計知識さえあれば)理解できるものです。

それでなければ、経営者が正しく経営判断できません。そして、株主や一般投資者が比較研究も出来ず、安心して投資できませんね。

  • 来年の経営は如何にすべきか?
  • 来年も健全経営できるか?
  • 来年はこの会社の株価は上がるか?下がるか?

などの経営判断をするための経営基礎数字は、法律に基づいた公平・公正に作られたものでなければならないわけです。それを破って会計処理を偽装した何処かの国の某社は現在 倒産の危機を迎えていることはご承知のとおりです。

税務会計は税金を公平に徴収するためのもの

前記の如く、税金は「税法」に基づいて徴収されます。したがって、税法に基づいた税務会計は、いくら税金(主に企業所得税)を払うかというためのものです。

将来の経営判断数字には無関係です。

あくまでも、結果に基づいた利益などの数字に基づいて、誰からも何処からも公平に税金を徴収するための法律が税法です。

日本は年度末に決算処理をして、その結果に基づいて納税申告をします。つまり年に一回の納税です。しかし、中国の企業所得税は毎月に月次決算処理し、翌月の初めに申告し納税します。したがって、ますます将来に向かっての経営判断をその決算処理に加える余地は少なくなります。

税務局は、申告内容の照査をしますが決算処理が正しいかどうかは見ていません。税務申告内容が税法に基づいて正しいかどうかを見るだけです。

素人経営者が「我社の決算は税務当局も認めた正しいものだ」とおっしゃるのは大きな誤解です。

例えば、固定資産の減価償却費の計算方法です。

・・・・減価償却費とは、高価で長く使える資産については買った時一度に費用として計上せず、使用する期間に応じて分割して費用計上する。・・・・

ある会社の新製品の費用計算の事例です。

  • この製品は、初年度に毎月1万個、年間12万個作り販売するが、3年目以降は販売見込みがない。
  • 部品の機械加工のため、 60万元の特殊機械が必要。しかし、3年目以降の使用目処が無いため、寿命は 2年と見込んだ。
  • 材料費は、1個あたり 2元必要。
  • 組み立ても含めた製造費用は、1ヶ月 2万元。
  • 管理費およびその他費用は、1ヶ月 1万元。
  • この製品の市場価格は、6.5元。したがって売価も一個6.5元とした。

原価計算をした結果、いくら利益が出るか?

それを一覧表にすると次のようになります。

(単位:人民元)

  税法による
原価計算
会計法による
原価計算
1ヶ月 1個 1ヶ月 1個
機械
償却費
4,500 0.45 22,500 2.25
材料費 20,000 2.00 20,000 2.00
製造費 20,000 2.00 20,000 2.00
管理費他
経費
10,000 1.00 10,000 1.00
合計 54,500 5.45 72,500 7.25
売上 65,000 6.50 65,000 6.50
利益 10,500 1.05 △7,500 △0.75
  • 会計法では償却期間とその方法は各企業が決めることになっている。
    この事例の設備は、使い方によっては長持ちするかもしれないが、事例の会社は2年しか使わないので2年償却とした。使用後は中古機械として売却する予定で、その売却価格は、購入価格の10%すなわち6万元だろうと推測した。
  • 税法では償却期間とその方法は科目ごとに一律に決まっている。
    製造設備の償却年数は、一律10年であり、償却後の処分(売却)価格は10%と規定している。

この事例では、税法で原価計算すれば毎月利益が出ます。そしてきちんと企業所得税を徴収されます。しかし、2年経った後はどうなりますか?減価償却費は発生しますが製品の販売はなくなり、毎月赤字です。赤字になったから過去に納めた税金を戻せと言っても、何処も聞いてくれません。それよりもこの資料の左側だけの数字を見て利益が出たと経営判断をして喜んでいたら大変なことになりますが、御社は如何ですか?

減価償却計算および原価計算は2種類の方法でされていますか?

1種類しかない?・・・怖いですねー。

続きは次号で。

佐藤 忠幸

佐藤 忠幸

佐藤中国経営研究所 代表 (上海在住)

専門分野

企業管理・人事労務・労使関係・品質管理・幹部・5S研修・社内規定

電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。

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