佐藤中国経営研究所 代表 佐藤 忠幸
「中国での企業経営は難しいですよ。特に会計は分からないことばかりで困ります」とお嘆きの日本人社長をよく見かけます。難しいことは何処でも同じです。
そして中国の会計は本当に特殊でしょうか?
前号で会計には財務会計と税務会計そして管理会計の3種があり使い分ける必要があり経営管理としては財務会計をすべきと書きました。財務会計をしていない会社の社長さんも、毎日の様に各種決裁印を押し小切手や出金伝票にサインをしていますが、そのサインに躰を張って責任を負えるのでしょうか?
企業内の会計師は会計法に基づいた会計処理をしたがらない
企業の、多くの会計担当者は会計法に基づいた会計処理をしたがりません。
何故ならば、
①会計準則に不慣れであること。
②毎月の税務当局の監査では税金計算さえ間違いなければ問題にならない。
③増値税の還付漏れが怖いから。・・・後述
しかし、会計担当者に聞けば「我社はきちんと会計法(会計準則)に基づいて決算処理をしています」そして「会計準則の勉強もしています。そうしないと会計資格の更新が出来ません」と言います。
しかし、御社の財務諸表や会計監査報告書を見てください。特に固定資産台帳の原価償却費計算資料を見てください。
税法によるものと会計法によるものの2種類がありますか?
一種類しかない会社は、減価償却費計算は税法でやっています。税法による決算が間違いなくてきちんと納税していれば税務局からは叱られないからです。しかし、前記の事例のごとく間違った原価計算をし、間違った損益計算をし、経営判断ミスの原因を作っています。
税務局から叱られなくても、社長から叱られれば両方式の計算をするようになりますが、叱る社長は少ないようです。
毎月、税法と会計法の2種類の決算をするのは大変だ? それはごまかしです。
毎月の決算は会計法(会計準則)で行い、年次決算だけ両方で行い。年度末に修正納税をすれば良いのです。すなわち、現在やっていることを逆にすれば良いだけです。
めくら判は犯罪者をつくる
私が以前、中国製造業の社長になったばかりの時に、管理部長が月次決算書を持ってきて「ここに署名してください」と言ってきました。
「そんなに簡単にはみられないよ、じっくりとみるので2時間後に来なさい」と帰しました。
2時間後に幾つかの疑問点を見つけて、管理部長に質問すると、
「それは知りません、後で聞いておきます。とりあえず署名してください」。
「君は何を照査して、私の承認を得ようとしているのか?」「私の疑問内容に何故答えられないの?」と聞くと、
「すみません、優秀な会計課長を信用していましたから何も疑問に思いませんでした」
「前任の社長さんは、いつもその場で署名してくれましたので、つい・・・・」
管理部長が調べてきて私の疑問を解消するまでは、当然、私は署名しません。
管理部長が、会計課長に同じ質問をぶつけても同じ答えが来るでしょう。
「すみません、優秀な会計担当者を信用していましたから何も疑問に思いませんでした」
すなわち、トップのめくらサインやめくら判が常態化すれば、部長は課長にお任せ、課長は担当者にお任せするようになってしまいます。
部下を信用し任せるということは大切なことです。
しかし、それと放任する、めくらサインとは異なります。上はどうせ見ないな、めくらサインだなと分かれば、つい出来心で不正が起こる環境になってしまいます。最初は小額であっても長年の間にとんでもない金額になります。
不正という犯罪をする社員には、入社前から犯罪者になるつもりの者はいません。出来心を抱かせる環境が犯罪者をつくっているのです。
すなわち犯罪者となる動機は、経営者が産んでいるのですよ。
数字は信念を持って見よう
「私は、会計は専門ではないのでそんな疑問点は見つからないよ」ともよく聞きますが、それは誤解です。
会計専門家でないほうが経営数字の間違いはよく分かるのです。それは数字を客観的にみられるからです。
- 先月は幾ら売ったな。
- その為に材料を幾ら仕入れた。
- 幾ら作った。
- だから、
- 幾ら儲かり、
- 幾ら在庫が残ったはずだ。
この基本を頭で描いてから「私は経営者だ! だから我社の数字は一番掴んでいるぞ」と嘘でもよいので信念をもって見てください。その目で、財務諸表を見れば、多くの疑問や問題点は目に飛び込んできますよ。
まあ、誤魔化されたと思ってお試しあれ。会計責任者や監査法人のプロがびっくりするような間違い箇所を見付けられますよ。
なお、私は会計専門家ではありません。
会計に関する詳細なご質問には詳しい専門家に問い合わせてお答えします。
電子・機械・成型・縫製など異業種製造業数社で、日本および海外子会社で数多くの会社立ち上げと再建業務に携わる。現在は上海と横浜を基盤として、幅広く、経験に基づいた相談と指導を行っている。各社顧問と各種セミナー講師および雑誌や新聞への執筆多数。