ビジネスマナー・ビジネス日本語 講師
島田 由利子
日本では、勉強ができることと頭がいいことは違う、とは巷間よく言われることで、頭でっかちであることをよしとしない風潮は確かにあります。ただ、それに加えてスポーツもできれば、いわゆる“文武両道”として注目を浴びることになります。では、いわゆる芸術方面の能力は、というと、兼ね備えていれば称賛されますが、特に必要であるという雰囲気ではないようです。
数年前のことですが、よく見ていたテレビ番組のひとつに“波士堂(ぼしたん)”があります。 毎回、一代で築きあげた大手企業の経営者などがゲストとして登場し、3人のレギュラー陣と司会者が様々な質問をあびせかけるものです。ゲスト陣はいわゆる勝ち組であり、成功者として中国で注目を集めている人たちなので、話の内容はいつも面白く、私も興味深く拝見しておりました。いつぞやなど、ある経営者が、仕事に失敗したとき、友人から、新疆(ウイグル自治区)へ行けば、まったく別人として生活していけるから、とすすめられた、とか、そういった話を堂々とテレビで語っていらっしゃいました。でもなんといっても面白いのは、ゲストの経営者たちが、必ず、“才芸”を披露することでした。ある人は、歌を歌い、ある人は、ダンスをし、各人それぞれ、ご自分の得意な“才芸”を披露するわけです。
日本だと、企業の経営者として成功した人が、テレビのトーク番組にゲストとして招かれた時、歌や踊りを披露することは少ないような、というか、見たことがない気がします。そして、その番組だけで判断していれば、彼らは企業人として成功を勝ち得たけれど、ただがむしゃらに仕事だけをしてきたわけではない、ということをアピールしているのね、などと思ったかもしれません。が、ある体験により、中国では“才芸”を持ち合わせていることは非常に重要なことであると実感したのです。
2006年、中国で全中国人を対象に、普通語のイメージ大使を選ぶ大会がありました。私も上海地区大会に、外籍の部(台湾、香港、マカオ、外国人)で参加しました。人数が少なかったので準決勝までいったのですが(中国人は学生の部や社会人の部などたくさんあり、競争が激しかったようです)、その大会では、朗読に加えて“才芸”の披露がありました。
中国人参加者たちは、自分の得意な楽器を持ち込んだり(高校生の男子はアコーディオンを持ってきて演奏していました)、カンツオ―ネを歌ったり、ダンスをする子は、全身ダンス衣装、メークもダンスメークで自分の番までひたすら練習をするという熱心さでした。こういった様子を目の当たりにし、いわゆるスピーチコンテストという既成のイメージしか持ち合わせていなかった私は、少なからずびっくりしたものです。とにかく参加者たちの“才芸”に対する意気込みは、目を見張るものがありました。
仕事ができても勉強ができても、何か、周りの人たちを感動させるような“才芸”をもっていないと、あまり尊敬されないのかな、と思わせるほど、中国では“才芸”の披露は重要だと実感した次第です。そして、それは決してプロ並みの力を持ち合わせていなければならないわけではなく、自分自身が努力して続けているもので、人前でその努力の成果を披露できる、という気持ちを持ちあわせていることこそが、本当に重要なことだと思っているのではないでしょうか。
微妙に違うからこそ面白い中日文化、興味が尽きません。
日米および香港・上海での長く幅広い社会経験から裏打ちされた、ビジネスマナーおよび語学指導に好評を得る。
各種研修と講演および各誌コラム執筆多数。