上海開澤律師事務所 パートナー弁護士 王 隠
中国で事業展開する日系企業が、日本の技術・商標権利保持者の技術・商標を利用して中国で製品を製造販売し、その日本の技術・商標権利保持者に技術ロイヤルティ、商標ロイヤルティを送金する場合、中国の法律上においてどのように規制、運用されているのか。これは多くの日系企業にとっての関心事であると思われます。以下、二つのケースについてご紹介します。
1. 日系企業は中国に製造販売会社があり、そこで製品を作り、中国内で販売するケース
1.1 技術援助の場合
①『技術輸出入契約登記管理弁法』に基づき、契約発効後60日以内に製造販売会社所在地の商務管理部門にて技術輸出入契約登記を行います。ただし、技術契約に当たるか否かの認定があるため、「技術援助」の具体的内容を明確にする必要があります。技術援助を認定されない場合、登記はできません。
② 登記済みの技術輸入契約と申請書等の必要資料が揃っていれば、外貨送金はできます。通常、銀行が資料を確認しており、外貨管理局は特別な事情が無い限り、各送金のケースを審査しません。
③ 営業税については、技術援助の内容によって免除になる可能性があります。また技術援助に技術譲渡の内容がある場合は、これに関係する技術サービス料も免除になります。ただし、管轄税務署との確認が必要です。企業所得税については10%となります。
1.2 商標使用許諾の場合
① 『商標使用許諾契約登録弁法』に基づき、契約発効後3ヶ月以内に国家商標局にて商標使用許諾契約登録を行います。
② 登録済みの商標使用許諾契約と申請書等の必要資料が揃っていれば、外貨送金ができます。通常、銀行が資料を確認しており、外貨管理局は特別な事情が無い限り、各送金のケースを審査しません。
③ 営業税5%と附加(営業税の13%)が必要となります。企業所得税は10%となります。
2. 日系企業は中国に製造会社がなく、提携の製造会社に製品を作ってもらい、それを中国内で販売するケース
2.1 技術援助の場合
①処理方法一
現地法人が技術輸入の仲介者として取引に参加し、日本の技術権利保持者と中国の製造会社とで三者間契約を締結します。この場合、仲介の立場で仲介料を受け取ります。ただし、現地法人の経営範囲に技術輸入の仲介がない場合、商務委員会が契約登録を認めないことがあります。
②処理方法二
現地法人が技術輸入の買い手として取引に参加し、日本の技術権利保持者とで技術援助契約を締結し、さらに中国の製造会社とで技術援助契約を締結します。
技術使用・サービス料に関しては現地法人から日本の技術権利保持者に支払い、さらに中国の製造会社から支払ってもらうことになります。ただし、現地法人の経営範囲に技術輸入の仲介がない場合、商務委員会が契約登録を認めないことがあり、また中国の製造会社との契約関係の確定と商務委員会の裁量にも左右され、リスクが大きいと考えられます。
2.2 商標使用許諾の場合
日本の商標権利保持者と現地法人との間の商標使用許諾、現地法人と中国の製造会社との間の商標使用再許諾に分けられますが、それぞれの法規制、運用はケース1と同じです。ただし、再許諾の場合、外貨送金と税金の源泉徴収問題がなくなります。
以上から、ビジネス上の必要が特になければ、ケース1の実施が望ましいと考えます。
ケース2の実施が必要な場合、商標使用許諾はケース2で、技術援助契約はケース1で実施することのほうが望ましいと思われます。
東京大学法学士、一橋大学民法修士卒業後、黒田法律事務所、アンダーソン・毛利法律事務所、TMI総合法律事務所、中倫金通法律事務所等の大手法律事務所で経験を積む。
2003年には、「中国投資・契約交渉の実務」を出版するなど、寄稿多数。
日系大手銀行、中小企業基盤整備機構、海外職業訓練協会主催のセミナーなど日系企業向けのセミナー、講演は多数。