2011年08月23日(火)

メニュー背後の価格 その①

上海誠鋭実業有限公司 総経理 叶 家胤

 お客さんを接待する時、友人と会食する時、「どのレストランにするのか」という問題は、簡単そうでいて意外に悩まされます。その時、グルメサイトで検索することは良い方法ですね。

 多くのレストランが集まっているグルメサイトでは情報を上手に分類し、写真付きで紹介しているので、簡単に検索できます。しかも、グルメサイトを通して予約をした顧客に、一部のレストランは割引まで提供しています。今号は、マーケティング・ミックス4要素(product,price,promotion,place)を、レストラン側と、グルメサイト側の両方から考えてみます。

 外食が多い筆者も時々グルメサイトを利用しています。約3週間前、日本から来た友人たちと食事をするために、グルメサイトを通して、ある中華レストランを予約しました。予約確認の(携帯)ショットメールにより、食事料金に対して5%割引をしてくれるとグルメサイトから通知されました。

 当日、6人の食事会は愉快に終了し、筆者はウェートレスに勘定を頼み、事前通知に従って、そのウェートレスにグルメサイトから発送された5%割引のショットメールを見せたところ面白いやり取りが始まりました。

ウェイトレス:
「お客様、グルメサイトに電話をして、今日の食事会予約を取り消してもらえませんか」
筆者:
驚きながら「どうして??」
ウェイトレス:
上司にも誰にも相談せずに、堂々と「お客様のショットメールによる5%の割引は認めます。しかし、もしお客様が今グルメサイトにキャンセルの電話をしていただければ、今日の食事料金の10%を割引いたします。」
筆者:
「本当!?」
ウェイトレス:
「キャンセル電話をしていただければ、間違いなく10%割引をさせていただきます!」と断言。
・・・

 当日の食事料金は約1,000RMBですので、グルメサイトのショットメールの5%割引を利用すると50RMBが安くなります。一方、キャンセル電話一本をすると10%で100RMBが安くなり、さらに50RMBの得になると、だれでもその計算ができます。

 でも、なぜウェートレスがキャンセル電話をお客さんに掛けさせるのだろうかと考えました。

 マーケティング・ミックス4要素(product, price, promotion, place)の角度から考える場合、店側にとって、グルメサイトによって「広告・販促政策(promotion)」と「チャネル政策(place)」両要素の達成ができます。グルメサイトでの店舗紹介は広告政策であり、グルメサイトでの予約機能はチャネル政策になります。もちろん、グルメサイトを通しての予約顧客に対する5%割引は販促政策でありながら、そのチャネル政策の一環です。

 5%割引は販促費とすれば、実利を得るのはグルメサイトで予約した顧客です。グルメサイトでの店紹介は有料であれば、店側とっての広告費です。それに、チャネル使用料として、店舗よりグルメサイトへ一定の手数料を支払っていることも推察できます。上記「キャンセル電話」の勧誘は恐らくその手数料に原因があると考えられます。

 筆者の食事会を例として、店舗側の会計を考えてみます(広告費、手数料除外)。

① キャンセルしない場合(単位:元)
売上 1,000
料理原価 ▲700 (仕入原価+諸固定費)
割引額 ▲50 (5%顧客に還付)
利益 250  
       
② キャンセルした場合(単位:元)
売上 1,000
料理原価 ▲700 (仕入原価+諸固定費)
割引額 ▲100 (10%顧客に還付)
利益 200  

 上記の計算は店舗からグルメサイトに支払う手数料を引いていないため、①と②の利益額を比べれば、顧客に10%の割引を与えた方がもちろん店舗にとって損です。店は利益を最大化させる観点から考えると、他の要素がなければ、ウェートレスがお客にキャンセル電話を掛けさせることは理屈に合いません。したがって、店舗はグルメサイトに手数料を支払っていると推定できるのも自然です。

 その手数料は顧客の食事料金に比率させることは考えられ、もし顧客がキャンセルした場合、もちろんその紹介料が発生しません。

 店舗側にとって、食事した顧客にキャンセル申し込みをさせれば、グルメサイトにその手数料を支払わなくて済みますが、協力を得るためには顧客にも利益を与えなければなりません。もちろん、その利益はグルメサイトに支払う手数料より少なければ意味がないので、その手数料は食事料金の2%、5%、8%を例にして、それぞれの店側の会計シミュレーションをしてみます。

a. 手数料2%、キャンセルしない場合(単位:元)
売上 1,000
料理原価 700 (仕入原価+諸固定費)
手数料 ▲20 (2%グルメサイトに支払う)
割引額 ▲50 (5%顧客に還付)
利益 230  
b. 手数料5%、キャンセルしない場合(単位:元)
売上 1,000
料理原価 ▲700 (仕入原価+諸固定費)
手数料 ▲50 (5%グルメサイトに支払う)
割引額 ▲50 (5%顧客に還付)
利益 200  
c. 手数料8%、キャンセルしない場合(単位:元)
売上 1,000
料理原価 ▲700 (仕入原価+諸固定費)
手数料 ▲80 (8%グルメサイトに支払う)
割引額 ▲50 (5%顧客に還付)
利益 170  

 顧客に10%の割引を与えて、キャンセルをさせる場合、グルメサイトに手数料を払う必要がなくて、②番シミュレーションによって、店舗の利益は200RMBです。それに比べて、顧客にキャンセルさせない場合のシミュレーション利益結果はa.230RMB(手数料2%)、b.200RMB(手数料5%)、c.170RMB(手数料8%)となっています。

 店舗は顧客である筆者にキャンセルさせたいことは、店舗にとってキャンセルさせない場合より多くの利益を得なければなりません。b.手数料5%の時、キャンセルしてもしなくても、店舗の利益は200RMBになったことはそれが損益分岐点になりますので、手数料5%以上でなければ、店舗はキャンセル電話を顧客にかけさせる意味がありません。

上記のシミュレーションを見ると、c.手数料8%の時、キャンセルさせないと、店の利益は170RMBになり、10%の顧客割引を与えてキャンセルをさせた場合の利益②の200RMBよりすくないため、その差額の30RMBを得るために、店舗が顧客にキャンセルをさせたのです。

店側にとって、顧客に与える割引であろうが、グルメサイトに支払う手数料であろうが、どちらも費用或いは原価になります。利益を最大化にさせるため、両者の合計金額を最小化にさせたい気持ちはわかります。

顧客にとって、グルメサイトでの予約によって、5%の割引以外に、ポイントももらえますが、将来的に使えるポイントは到底その場で引いてくれる追加5%の割引より魅力が小さいです。したがって、多くの顧客はその条件でキャンセル電話をするでしょう。

店舗側はトータル的に原価(費用)低減させる目的を達成でき、顧客はより多くの実利を得た結果、グルメサイトにとっては本来もらえる手数料収入がなくなった被害が受けたのも事実です。

次回では、グルメサイトの立場で、今回のような「キャンセル電話」事件を考えてみたいと思います。

(誠鋭時事2009年12月号より抜粋転載)

叶 家胤

叶 家胤

上海誠鋭実業有限公司 総経理 (上海在住)

専門分野

企業管理・会計、税務管理

日本の流通経済大学および産能大学大学院経営情報研究科卒業(MBA取得)後は上海へ戻り、コンサルタント会社を設立。日系企業の各種経営相談・指導を行っている。
2003年より異業種交流会「上海ビジネスフォーラム」を主宰しながら、各種雑誌にコラム掲載および各社顧問と各種セミナー講師多数。

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