2011年09月09日(金)

メニュー背後の価格 その②

上海誠鋭実業有限公司 総経理 叶 家胤

 グルメサイトで予約したレストランで食事した後、レストランからグルメサイトにキャンセルの電話をさせられ、レストランと顧客が得した事例を前号で紹介しました。今回は、キャンセル電話によって、予約手数料を取得できなくなったグルメサイトの角度からこのメニュー背後の価格問題を考えてみます。

 グルメサイトにレストラン紹介等を掲載させている店にとって、グルメサイトは広告(業)会社です。広告(掲載)料金を徴収しているグルメサイトの「顧客」はその広告主であるレストランであるのも明白です。

 一方、予約手数料をレストランから徴収している時、グルメサイトにとって、レストラン以外に、グルメサイトを利用する個人も「顧客」となっています。

 また、予約手数料の徴収条件として①グルメサイトによって予約したこと、②その予約による食事が実現されたこと、を考えた場合、グルメサイトは仲介(業)会社です。今回キャンセル事件の焦点は「予約手数料」であるため、主に仲介業としてグルメサイトの問題点を考えてみたいと思います。

 グルメサイトの立場から考えると、単なるレストランを紹介する広告機能、そしてそれを分類して提供する検索機能を実現させるために、当然膨大な情報収集、広告デザイン、プログラム構築等の費用がかかります。ただし、それらの費用はレストランから徴収する広告費(掲載料金)で賄われているはずです。

 それ以上に予約機能を持たせたければ、すべてのレストランにパソコン等のハードウェア及びグルメサイトと連動させるソフトウェアが完備されない限り、グルメサイトに予約機能を果たすための従業員が必要とされます。個人顧客からの予約電話、またはインターネットによる予約情報をチェックして、該当店に電話予約する従業員及び関連補助費用はグルメサイトのコストになり、それを予約手数料としてレストランから徴収するのも合理的とも言えましょう。

 しかし、なぜその合理的な手数料をレストランが払いたくないのでしょうか。

 グルメサイトの予約機能を利用する個人顧客は、何を求めるかという質問に、「便利さ」だと答える人が多いかと思います。しかし、実際に利用したことがある方には、別の意見もあるはずです。なぜなら、もっとも便利な予約方法として、グルメサイトの検索機能を利用してレストランを選択し、そのレストランに直接(電話)予約することが考えられます。そうすれば、空席があるかどうかなどの情報確認がすぐできます。一方、グルメサイトで予約すると、それらの情報確認はどうしても遅れてしまい、その確認情報を待っている間、食事会参加者への通知などの準備を取りかかれなく、もし予約失敗であれば、第二希望のレストランへの予約まで遅れてしまうことすらあります。

 したがって、個人顧客にとって、「便利さ」以外に、「割引」もグルメサイト予約機能を利用する重要な理由だと考えられます。直接レストランに予約すると100%の料金、特定グルメサイトを通して予約すると、一定の割引をくれるのであれば、多少確認情報の遅れがあってもグルメサイトを利用するという選択肢もあり得ます。

 「割引」という手段は、グルメサイトの予約機能を利用する個人顧客を増やすだけではなく、前段階の広告、検索機能の集客にも大きく役立つことは言うまでもありません。集客量が多くなれば、グルメサイトとしてレストランから徴収する広告費(掲載料)の値上げも当然できます。つまり、「割引」は個人顧客だけではなく、グルメサイトにとっても大きなメリットがあることは間違いありません。

 しかし、グルメサイトにとってメリットがある「割引」のコストは全部レストランが負担しており、グルメサイトは全く負担していません。

 今まで、グルメサイトの広告機能と予約機能を別々に分析してきました。その観点で考えると、広告機能と予約機能の実現、それぞれコストをかけたグルメサイトがレストランから広告料金と予約手数料を別々に徴収する理屈も理解できます。

 しかし、もし、グルメサイトによる集客増加によって、レストランから徴収する広告費を増額させる場合(現実はそのことが多いですが)、予約機能は集客の手段になり、(増加する)広告費の「原価」と認識できます。間接的に広告費を増額させる機能をもつ予約機能にとって、非常に重要である「割引」を全額負担しているレストランにとって、次のようなストーリが考えられます。

  • 広告料金を支払い、グルメサイトで店舗紹介を掲載する。
  • 予約機能を利用するため予約手数料をグルメサイトに支払う。
  • さらに、そのグルメサイトを利用する顧客に割引を提供する。
  • その割引により、グルメサイトの利用者を増加させる。

 しかし、グルメサイトの増加によって、広告費、予約手数料、割引料すべて増える結果につながります。極論で考える場合、レストランが全額負担する「割引」によって、レストランの広告費、予約手数料がさらに増えることですね。私がレストランの経営者であれば、そのような取引は馬鹿馬鹿しく思うので、グルメサイトによって予約した顧客にキャンセル電話をさせるはずです。

  広告機能と予約機能を別々に考える場合、予約手数料は合理的ですが、予約機能は広告機能を是認させる手段として考えた場合、全額割引料金を提供しているレストランにとって予約手数料は不合理になります。しかし、予約手数料が存在している現状を考えると、レストランが不満でありながら支払わなければならない原因があり、グルメサイトとしてもキャンセル現象を防ぐ措置が必要がと思います。

  現実的に考えると、その解決は予約手数料の金額設定にあるかと思います。それについて、また次号で分析してみたいと思います。

(誠鋭時事2010年1月号より抜粋転載)

叶 家胤

叶 家胤

上海誠鋭実業有限公司 総経理 (上海在住)

専門分野

企業管理・会計、税務管理

日本の流通経済大学および産能大学大学院経営情報研究科卒業(MBA取得)後は上海へ戻り、コンサルタント会社を設立。日系企業の各種経営相談・指導を行っている。
2003年より異業種交流会「上海ビジネスフォーラム」を主宰しながら、各種雑誌にコラム掲載および各社顧問と各種セミナー講師多数。

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