上海誠鋭実業有限公司 総経理 叶 家胤
統計・会計データは「過去」の事実を反映する手法ですが、「将来」に着目しているのが本来の目的であるとも言えます。そして、「将来」への影響はそのデータを利用する人の判断によって実現されますので、当然、現在の判断基準である統計・会計データの正確性が要求されます。
自動車において、今までの走行距離を表示してくれる計器データ(過去)によって、近々にメンテナンスを受ける必要があるかどうか(現在)という判断をし、それは今後の走行安全(将来)に影響を与えます。自動車のメンテナンスタイミングは走行距離と関係しています。
もし、実際の走行距離より計器表示が短ければ、メンテナンスのタイミングが遅くなり、本来回避できる故障が発生してしまいます。一方、もし実際走行距離より計器表示が短ければ、本来はまだ必要のないタイミングでメンテナンスをしてしまい、資源の浪費に繋がります。
現在の判断が将来に影響を与えることは、会社経営において、計器と同様の役割を果たす「会計」も同様です。
減価償却という行為で、事例研究してみましょう。
20万元で購入した機械の寿命は、その機械の質・使用状況によって、長くても6年が妥当な判断だと仮定します。
会社の年度損益計算書を自動車の一つの計器として考える場合、その機械減価償却年数と残存価値の判断が経営者(車の運転手)に、どのように影響を与えるかを説明します。
その機械によって生産される製品の市場価格が一定であり、減価償却以外の条件がすべて同じである前提で、A社とB社が決定している減価償却年数による製品の損益計算を比較してみます。
▽表1:製品一個あたりの減価償却費の違い
A社 | B社 |
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取得原価:200,000 年間生産量:33,333個 償却年数:10年 残存価値:10% 年間減価償却費 =(取得原価‐残存価値)÷償却年数 =(200,000-20,000)÷10 =18,000 単個減価償却費 =年間減価償却費÷年間生産量 =18,000÷33,333個 ≒0.54RMB |
取得原価:200,000 年間生産量:33,333個 償却年数:6年 残存価値:0% 年間減価償却費 =(取得原価‐残存価値)÷償却年数 =(200,000-0)÷6 ≒33,333 単個減価償却費 =年間減価償却費÷年間生産量 =33,333÷33,333個 ≒1.00RMB |
10年償却と残存価値10%を選択したA社の製品一個の減価償却費は0.54RMBに対して、使用年数6年と残存価値0%を選択したB社の製品一個の減価償却費は1RMBと高くなります。
▽表2:製品一個の利益の違い
A社 | B社 |
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売価:2.45 原価 原材料:1.00 人件費:0.50 製造費:0.54(減価償却) 粗利益:0.41 |
売価:2.45 原価 原材料:1.00 人件費:0.50 製造費:1.00(減価償却) 粗利益:▲0.05 |
他の条件が全く同様で、減価償却年数及び残存価値の(経営)判断が異なることによりA社が黒字、B社が赤字と大きな利益の相違ができてしまいます。
したがって、B社総経理は赤字を黒字に転換させるために、毎日経営努力をしなければならず大変です。しかし、黒字化に成功すれば、6年目に機械廃棄時、償却費は回収済で、新しい機械を買換える資金があります。
一方、A社総経理は黒字化がすでに実現していると誤認し、経営重点を別のところに置きます。結果、6年目に機械廃棄時に残り4年の未償却費用を固定資産の一括廃棄損に計上して、一気に赤字計上となるだけではなく、償却費用の回収が全部終わっていないため、新しい機械の買換え資金がないという最悪の状態に陥ることまで考えられます。
機械の使用年限という客観的要素を間違って評価することによって、会計データという計器の表示を狂わせ、それを指標として経営(運転)している経営者(運転手)の判断ミスを引き起こさせ、企業経営(自動車)の事故に繋がる恐れがあることを上記の事例でお分かりでしょう。
皆さんはA社それともB社?どちらの総経理になりたいですか?
4回通じて、統計・会計が国・企業経営における役割、そして、その役割と使い方を間違っていた場合の悪影響を説明しました。まだまだ会計軽視をしている経営者が多い現状、正しい「計器」を見て、安全に自動車運転する方が少しでも増えていただければと期待します。
日本の流通経済大学および産能大学大学院経営情報研究科卒業(MBA取得)後は上海へ戻り、コンサルタント会社を設立。日系企業の各種経営相談・指導を行っている。
2003年より異業種交流会「上海ビジネスフォーラム」を主宰しながら、各種雑誌にコラム掲載および各社顧問と各種セミナー講師多数。